乗鞍岳・4時間のラストスキー

今年も乗鞍岳でラストスキーとなった。乗鞍岳でスキーシーズンを〆るのは20年くらい前から何度も経験しているが、その間にアルピコバスが春山バスを定期的に運行するようになったり、バックカントリースキーヤーやボーダーが数多く訪れるようになったり、外国人を含む観光客がバスを利用して雪を見に来たりと、大きな変化があった。初めて乗鞍岳を滑った時は、乗鞍高原のペンションオーナーに頼み込んで一緒に登ってもらい、春山バスもきちんとした形で動いていなかった。だからスキーで登って滑った後は登山道をスキーブーツで歩いて降り、とても疲れた記憶だけがかすかにある。山中では除雪の重機の音がするだけで、誰にも会わなかった。

追憶はそのぐらいにしておこう。本当は14日の晴天を狙って登りたかったのだが、当日にどうしても外せない用事ができて、乗鞍は指呼の距離である松本平にいながら、快晴の空を恨めしく思っていた。用事を済ませてから乗鞍高原に移動し、この日は温泉つき民宿に泊まった。翌日のバスの第1便は昨年よりも1時間遅く、朝の時間に余裕ができる。宿泊先で乗鞍大雪渓webを見たら、14日は晴天のため第1便バスが6台にもなったという。15日の好天はあまり期待できないが、前日のような混雑はなかろう。

乗鞍のスキー場を通る県道を走りながら、昨日と違って乗鞍岳が雲で見えず、雲の流れもずいぶん速いことがわかった。三本滝駐車場でバスを待つ間、雨雲が上空を駆け抜けるように過ぎて行くのが気になる。

翌日の第1便は1台。席にも余裕があった。スキーヤーが半分、登山がわずか、残りが観光客といったところか。ゲートを過ぎると車窓に雨粒が見える。満足なラストスキーにならないかも?という不安がよぎる。バスは9時過ぎに位ヶ原山荘に到着し、あらかじめ書き込んできた入山計画書を提出して、9時20分ころには出発した。

計画では鶴ヶ沢を登って滑り、屋根板から「すべり台」に登って富士見沢を滑り、余裕があったら大雪渓方面に転進しようと思っていた。先行する2名の方が鶴ヶ沢を登り始めたので私もそれに従って高度を稼ぐ。先行者の姿がガスに隠れることもしばしば。地形はわかっているけどホワイトアウトはイヤだなと思いながら、明瞭な沢状地形が左前方に見えたので、先行者のトレースは追わず沢の中を登る。若干だが風が遮られる。2600mあたりからは源頭部になるので吹きっさらし。登り始めから小雨も降っていたが、ついに霰に変わった。
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鶴ヶ沢を登り始める
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見えない
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むこうに岐阜県の標識

道路最高地点までたどりついたのが10時30分。視界は20m程度か。ただし、滑る沢の下方は視界が広がる。どこにも風を遮れる場所は見当たらないが、ちょっとした岩陰でシールを剥がし、すぐに滑降。登ってきた沢状地形に入り、2500mでスキーヤーズライトの小尾根方面にトラバースし、屋根板方面へ。2450mでシールを貼り、アップルデニッシュを頬張り、屋根板を最小限の登行でクリアし、大雪渓避難小屋と冬季閉鎖中のトイレ方面に向かう。

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下方は視界があるのが幸い

屋根板を越えた所から南西風が強くなる。あわよくば肩の小屋か、その上までは行きたかったが、登っている人を周囲に見つけることができず、朝日岳・剣が峰方面は2700mくらいから上が完全にガスっているので、不安が強くなる。11時40分、避難小屋近くでこれ以上肩の小屋方面に登ることはあきらめ、きびすを返して「すべり台」に向かう。除雪前の道路を歩いて、「すべり台」に取りつき、時々耐風姿勢をとりながら2800mまで登りきる。12時30分前に到着。晴天だと暑くて休みたくなるが、この天気では休んでいられない。例年よりも高度による酸素不足と苦しさを感じないのは、休んで息を整えるほど余裕がないということなのか?普通に2000m台前半の山を登っているような感じで、息が上がることがない。

岐阜県側の登山道を摩利支天方面に向かう人を一人見かけた。「すべり台」の下方に2〜3名、位ヶ原からツアーコース方面に向かったと思しき人が2名ほど。
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避難小屋とトイレ(風強く山頂部は見えず)

岩場を乗り越えて富士見沢の一番上からドロップしようと思っていたが、風の中プラブーツで岩場を歩きたくないし、富士見沢源頭の雪の上でシールを剥がしたりスキーを履いたりするスペースが覗き込んだ限りでは見当たらないので、「すべり台」でシールを剥がし、アンパンを頬張り、ペットボトル紅茶で流し込んで12時30分に滑降開始。一度コケたが50mほど滑った所にハイマツの切れ目があり、富士見沢に入り込めそうなのでそこから富士見沢にドロップ。沢の中を登っている人が上にも下にも数名見られた。

気持ちよくターンして、スキーヤーズレフトの沢状地形を2540mまで滑り、ここで12時37分。滑るのは早い。もう大雪渓・剣が峰方面の強風を浴びたくないし、富士見沢は風裏になっていて視界も開け快適だが、これから天候が良くなるのかどうかもあやしい。しかもメインディッシュの斜面は滑ってしまった。バスは午後に2便あるが、15時30分の第4便までは時間を持て余しそうだ。13時30分の第3便に乗って下ることに決めた。ツアーコースでの下山はゲレンデで雪がないので最初から選択肢に入れなかった。

残りあと1時間弱、ちょっとだけ登って最後の滑降をすることにして、12時55分、標高2600mをメドに登行を止めるつもりで登り始める。目標時間ピッタリに目的の標高に達したので、もう少し登れそうな斜面の余地はあったものの、シールを剥がして滑る。位ヶ原山荘は目の前なのだが、これが意外と長くて雪質のせいもあって太ももにくる。13時03分、道路に出て終了。やっぱりスキーで滑るのはあっという間だ。立った4時間の行動に過ぎなかったが、充実はしていた。満足。

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終了後に屋根板と富士見沢を見上げる
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また来ます

まだ30分余裕があるので、位ヶ原山荘でコーヒーを飲み、バスで下山。三本滝でツアーコースを滑りかもしかゲレンデを歩いて降りてきたガイドとゲスト二人と再会した。
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バス車窓から
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三本滝の下のカーブから。少し状況はよくなった気もする

昨晩泊まった宿で硫黄泉に浸かり、硫黄臭を身体から発しながら帰路についた。時間も早いのと、中央道集中工事が始まったのでルートに逡巡したが、結局松本から長野道・中央道で八王子JCTまで、その後は2時間以上かかるという大渋滞を圏央道で迂回して関越〜外環〜首都高。自宅着が20時。平日は高速代が高い・・

今シーズンは単独で雪山に入った回数が例年になく多かった。単独の雪山は確かにリスクが高い。自分の能力を過小評価しつつ登る山を選び、山中で選択肢があるときには安全な方を選択することが大事だろうと思う。その一方で、単独で歩いたおかげでできた発見も多かった。友人と楽しく会話しながら登ることもいいのだが、縛られずに自由に行動を選択できることは単独行の醍醐味だろう。ただ、それで山の中で動けなくなることは絶対に避けなければならない。来シーズンも、次のシーズンも、ケガなく無事まっとうできることが中高年のバックカントリースキーの獲得最大目標だと思うのであるが、これから果たしてできるのか、ただエラそうなことを書いているだけに過ぎないではないか、とそしられぬようにしたい。

高畑でコケて痛めた右肩、早く治ってくれ・・

今回のルート(直線的な軌跡が滑降)
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