礼文島西岸単独行

このレポートは礼文島内の地名が頻出するので、適当に地図を見ながらご覧下さい。
適切な白地図があれば作りたかったのですが、素材が見つからず、地図を作成することはしていません。

7月25日、利尻島の鴛泊FTで私は焦っていた。天気は明日から下り坂、南西風が強く吹く。礼文島で漕ぐとしたら今日の午後しかない。フェリーが礼文島の香深に着くのが10時10分、民宿の送迎車で船泊へ行き、カヤックのパックを受け取ってカフナを組み立て、昼食を食べて出艇するのはどう考えても12時過ぎから13時になろう。こんな時に限って天気はメチャクチャいいのだ。時間が惜しい。

焦っても仕方ないと思いつつも、フェリーの速度がもどかしい。
香深までは北東微風の凪状態。乗客はのんきにウミネコにエサをやっている。

定刻に香深港に着いて、民宿「ゆうなぎ」所有の3代目プリウスで船泊へ。部屋に案内されてザックを置き、必要なもの(利尻の湧水が入ったナルゲン水筒、帽子、行動食、カメラなど)だけザックから取り出して、民宿の目の前の道路脇でカフナを組む。順調に約20分で組み上がって、スポンソンのエアだけ入れずに昼食を食べに行く。しかし、民宿目の前の食堂はコンブが上がったあとの漁師たちが占拠していてとても時間がかかるという。宿の兄ちゃんに相談して、車で金田ノ岬にある「あとい」へ行き、奮発して2,700円のウニ丼を注文。新鮮なウニだったが、あまり味わう間もなく取って引き返し、カフナを海岸に出す。船泊の大備(おおぞなえ)集落にある「ゆうなぎ」の目の前に朽ち果てた小さな桟橋があり、その脇の白い砂浜から12時20分出艇。

船泊海岸から出艇

とりあえず船泊湾を横断しながらゴールを考える。宿のにいちゃんはトド島とスコトン岬の間に海流があるので渡るのは止めておいた方がいいとアドバイスしてくれた。こちらも時間に余裕がないのでトド島は仕方なく諦める。湾内は微風による北東からのうねりが若干あるが、波高はわずか。カフナなら鼻歌を唄いながら漕げるが、普段と違って平パドルなので、いつもより水の抵抗を感じる。Gパドルとの違いってのは一掻きの重さなんだなと思う。ところどころに定置網の浮きがあり、それを避けながら白浜の漁港の北側をかすめ、スコトン岬近くの民宿の目の前を通過。浅瀬になったので海底がよく見える。水深は10m近くあるだろうが、礼文ブルーの透明度は非常に高く、スコトン岬を回り込むまで笑いが止まらなかった。

島最北の宿スコトン荘


トド島までわずかなのに・・

南もいいけど北もいい

スコトン岬も今日の海況では岸ベタで回り込める。トド島に後ろ髪を引かれながら進路を南にとる。ウミネコやウミウが多く、岩場にはウミネコのヒナもヨチヨチ歩いていて不審な赤いカヤックをしきりに警戒している。また漕いでいるとくちばしの太い海鳥が浮かんでいて、近づくと羽ばたいて逃げていくのだが、飛び立つのはヘタで水面をバタバタ進んで逃げていく。何という鳥だろうかと思っていたが、ウトウのような気がする。鳥には詳しくない(花も詳しくないけど)ので単なる推測である。

親子ウミネコ

ある岩場のそばを通ったら、アザラシが休憩中。そっと近づいたつもりだったが30mほどの距離でアザラシたちは海に入ってしまい、最接近はできなかった。海に入ったアザラシたちは一様に顔をこちらに向けており、私が諦めて進み始めると一定の距離をとってついてくる。振り返ってみたらアザラシの顔が15mほど後方に見えたのでまたニヤついてしまった。

遠くから凝視される

その後アザラシたちと遭遇することはなかったが、鮑古丹を過ぎ、ゴロタ岬の狭い水道を抜けたら風景が広がった。ゴロタの浜沿いには漕がず、鉄府の集落を左前方に見ながら澄海湾(すかいわん)へと入っていく。海水の美しさで有名なところらしい。案の定観光客が群れを成しているのが下から見えるので、近寄らず少し離れたゴロタの浜近くで漂いながらスプレースカートを開放し、カヤックの上で休憩しながら行動食を食べる。だが蚊の襲撃を受けた。ここまで約1時間と少し。いいペースだ。時間によっては西上泊で上がるか、召国まで南下して引き返すことを考えて漕ぎ始めたが、召国に2時までに着けるようならそのままワンウェイで元地まで漕いでしまったほうが得策かもしれない。民宿の送迎は島の北部の西上泊なら近くていいが、南部の元地だとかなり遠くなる。迷惑をかけることにはなるが、夕飯に間に合えばいいし、今日の宿泊は私一人だと聞いていたので、決行する。召国には予定通り2時に到着。番屋がいくつか見えるが、住んでいることはなかろうと思われる。

空も海も蒼い

利尻山も見え・・

そろそろ左手は高い崖になってきているのだが、残念なことに海食洞が見つからない。刺激がないのでロックガーデンの水路を進んでいくが、急に浅くなっている部分があり、時折ハルをこする。よく見ると岩には立派なコンブが生え、岩肌にはウニがびっしりついている。時間に余裕があれば覗いてみるのだが・・海水温は想像より高いようで、対馬海流の影響だろうかと想像する。2年前の積丹半島北岸よりも海水温は高い。

召国前後からアナマ岩までは陸路を通る8時間トレッキングコースも崖の上にあるので、視界の中に人工物や人影を見ることはない。海況がよいので安心だが、少しうねりなどが入ってくると厳しいところだと想像できた。ところどころに立派な滝が見える。海に直接落ちる落差の大きい滝だ。これも上陸して水浴びする余裕はなかった。

一番落差のあった滝

ロックガーデン水路はこんな感じ

前方に数軒の集落が見えた。島の中部にあり、自動車が通れる道路が通じていない宇遠内(ウェンナイ)集落だろう。防波堤手前で上陸してみるが、干した昆布をまとめている老夫婦がいた。不審船ではないことをわかってもらおうと声をかけたが、婆さんから「きょうは凪だからいいねぇ」と言われただけで、老夫婦は黙々とコンブをまとめていた。

宇遠内。寂しいところだ

この日初めて上陸

集落の探索をしてみようかと思ったが、時間も16時近くになってきているので先を急ぎたい。10分ほど休憩して、再び漕ぎだす。あと1時間あれば十分にゴールの元地まで着くだろう。「かね忠ノ島」を過ぎると元地の港や集落が見え、16時40分にメノウ浜に上陸。駐車場のはじっこにカフナを上げ、乾燥した風で乾かしながら撤収。観光客のおじさんから声をかけられた。聞けば千葉からきて、退職後に2ヶ月ほど北海道に滞在しているようだ。奥さんも連れてきているそうだが、連れて来られる奥さんの気持ちを聞いてみたい。

撤収が半ばにさしかかった頃宿に連絡を入れ、元地まで迎えにきてもらうことにする。順調に片づけが終わり、プリウス号が到着するまでブラブラして過ごす。上陸した頃は海岸に人がいたのに、ふと気付いてみると誰も周りにいなくなった。水分は摂っていたつもりだが、それでも給水不足だったのか、自販機で購入した飲み物を飲み干してしまう。特に下半身がコックピット内でサウナ状態だったから、発汗量は相当なものだったはずだ。

元地集落が見えてきた

わずか4時間のツーリングで漕行距離は約25km。もう少しゆっくり時間をかけて漕ぎたかったが、充実したツーリングだった。この日のコンディションで朝から漕ぎ始めれば1日で礼文を一周できたかもしれない。

きれいな夕日でした・・