8月に読んだ本から

・村田 晃嗣 著「レーガン いかにして「アメリカの偶像」となったか」(中公新書)
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1980年代について著作(「プレイバック1980年代」)のある同志社大学の村田晃嗣による、ロナルド・レーガンの評伝、ということになろう。
レーガン大統領は私のイメージでは、冷戦最末期に「新冷戦」を拡大した大統領というイメージが強く、減税のかわりに軍拡を行って、「SDI計画=スターウォーズ計画」のようなちょっと荒唐無稽の戦略を展開し、レーガノミックスによって財政と貿易の「双子の赤字」を生み出してしまった大統領、という負の側面が強い。さらにややこしいイラン・コントラ事件が発覚した大統領でもあった。
この本を読んでみると、レーガンが単なる俳優上がりのタレント政治家ではなく、演説やユーモアに富んだ(中には笑えないジョークもあるが)明るいアメリカ人の一面も持ちながら、なかなかしたたかな政治家であったことがわかる。
最近、レーガン時代が再評価されている。アメリカでは最も偉大な大統領の一人なんだという。日本にいて80年代を知っていると、全くそんな評価に与しようとも思わないのだが、不思議なものである。

・川上 泰徳 著「イスラムを生きる人びと」(岩波書店)
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朝日新聞の中東特派員が描いたイスラーム世界の現実。理論だけでなく、人々とイスラームの接点をしっかりと分析していると思う。カイロにはアズハル学院という、1000年以上の歴史を持つ高等教育機関があるが、決して象牙の塔ではなく、カイロの庶民がよろず悩み相談室として通う場所を有している。そこではスンナ派の4法学が平等に扱われていて、相談に来る民衆は好きなイスラーム法学派の学者のところへ行けばよいのだという。イスラームには聖職者はなく、庶民の悩みやトラブルを導く法学者・知識人が存在するだけである。
今月、シリアで亡くなられた山本美香さんのご冥福を祈ります。本当にシリアの情勢には心が痛む。

・川島 浩平 著「人種とスポーツ 黒人は本当に「速く」「強い」のか」(中公新書)
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ロンドンオリンピックは登山の最中にもラジオで聴いていた。メダル争いなんて前時代的だと思いつつも、選手たちが懸命に戦い、メダルを賭けて勝利をもぎ取るところは見ていて興奮する。
で、オリンピックなどのスポーツイベントになると登場するのが、「人種」による身体能力の差についての論議。「人種」は学問上全く意味のない概念だということはわかっていつつも、陸上競技などでの圧倒的な速さを目の当たりにしてしまうと、説得されてしまう人も多いのではないだろうか。血液型診断に少し似ている気がしないでもない。だが、例えばアフリカ系黒人選手が陸上やバスケットボールで多数を占めるのは、彼らが幼少期からそのスポーツに慣れ親しみ、子供の頃からその種目で高く評価されてきたからで、同じアフリカ系黒人でも短距離に強い国や、長距離に強い国、バスケットボールが圧倒的な国などがあって、一概に「黒人の身体能力は対抗できないほど高い」などと断言はできない。


・吉見 俊哉 著「夢の原子力 Atoms for Dream」(ちくま新書)
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読みでのある本だったが、論点が多岐にわたり過ぎていて読後感をまとめられない。
エディソンから説き起こして電気の供給体制が小規模地産地消型から大規模な発電所が遠隔地から高圧電線で都市に一元供給するタイプに変貌していったことを論じたかと思えば、日本の原発誘致の歴史を綿密に説いてみたり、その後はゴジラとアトムの意味付けになってしまう。ところどころにハッとさせられる部分もあるのだが、総花的過ぎて何とも言えない。