3月に読んだ本

和田春樹著「日露戦争 起源と開戦 上・下」にチャレンジしていたため、冊数は少ない。

・長山靖生著「日本SF精神史」(河出ブックス)



中学生・高校生のころはよくSFを読んでいたが、最近はほとんど読んでいない。著者によればSFにつながる科学(空想)小説は明治期から見られ、その足跡を追ったのがこの本である。どこまでを「SF」というジャンルに入れるかは難しいところだが、明治・大正期にも面白い題材が小説として扱われてきたことがわかる。押川春浪や夢野久作は知っていたり作品を読んだことがあるが、それ以外はほとんど知らない作家や作品ばかりだ。

・香川貴志著「バンクーバーはなぜ世界一住みやすい都市なのか」(ナカニシヤ出版)


以前、自分のブログで「住んでみたい街」というのを書いてみたことがあるが、海外だったら断然バンクーバーである。バンクーバーに行ったのはもう15年くらい前のことで詳しく覚えていないが、高緯度の割に暖かく、都市もコンパクトで非常にいい印象を持った。スキー場も近いし、アイスホッケーチームもあるし、何よりフェザークラフトの生まれた街だ。永住するのは難しくても、最低1年間住んでみたいとは思う。
この本では都市内交通事情や住宅街などの説明もあり、15年前のことをわずかに思い出す手引きにもなったが、まあほとんどのことは初めて知るようなことで、現地に再度行ってみないとわからないことが多かった。ただ、フェザークラフトの「カサラノ(khatsalano)」とは、バンクーバー周辺の先住民の長の名前で、現在でもキツラノビーチという地名で残っているそうだ。もしかしたらカサラノという名前はスクォーミッシュ族では一般的な名前なのかもしれないが、「湖の支配者・貴族」という訳語は当たらないのかもしれない。

・松岡正剛著「連塾 方法日本II 侘び・数寄・余白 アートにひそむ負の想像力 」(春秋社)


松岡正剛が行った連塾の「八荒次第」と称する全8回講演をまとめた本の中巻。「神仏たちの秘密 日本の面影の源流を解く」の続刊である。「神仏たち」は自分で勝って弊社図書館に寄贈したので、今回は図書館に買ってもらい、いの一番に借りた。
この巻も読んでいて面白く、神津島に行っている間に読み通してしまったのだが、何せライブ収録の本なので、ところどころリアリティが伝わらなかったり、わからない部分が残る。話も飛びに飛びまくるので、中心を押さえておかないと面白さだけで読み通してしまう。
ここで紹介されている芸術家たちに関わるものを読みたくなってくる。

・和田春樹著「日露戦争 起源と開戦 上・下」


あまりに大部でまだ下巻の半分くらいまでしか進んでいない。ソ連・朝鮮史を掘り下げてきた和田春樹氏の渾身の論文であろう。日本にはロシア語一次資料、朝鮮語一次資料、日本の軍事資料や政治家の日記などの一次資料があるが、3つの言語を駆使して日露関係の始まりから日露戦争開戦に至る詳細な歴史を書き切れるのは、和田氏をおいて他にない。

専門的な論文ではあるが、一般の読者にも読みやすく、司馬遼太郎の「坂の上の雲」を一読した人ならば上巻の冒頭と日清戦争以後の日露関係を扱った部分については根気よくつきあえば読めるはずだが、詳しすぎて最後まで読めるか自信を失いそうだ。

司馬遼太郎が「坂の上の雲」冒頭で述べたように、日露戦争時の日本は本当に「まことに小さな国」だったのか、そして日露戦争はロシアの南下に対する防衛戦争と捉えていいのか。和田氏は自らは直接語らないが、日・朝・露関係を詳細に見ていくと決してそんなことは言えないことがわかる。日本の軍隊や政治家たちは非常にしたたかに戦争を準備していった。日露戦争までの日本がまともで、以後アジア太平洋戦争までの日本が狂っているなどと単純に二分化して考えられない。
あと1週間で何とか下巻を読み切りたい。