12月に読んだ本

09年12月31日:記
・芹沢一也、荻上チキ、飯田泰之、岡田靖、赤木智弘、湯浅誠「経済成長って何で必要なんだろう?」(シノドス・リーディングズ 光文社)



著者がやたらに多いが、この6人のうち、メインは経済学者の飯田泰之。彼の対談のゲストが赤木や湯浅で、シノドス・リーディングというシリーズ本(とはいってもこれで2冊目だが)の中心人物が芹沢と荻上である。
最初からなかなか読ませ、非常に面白かった。デフレ基調の経済だが、今こそインフレを起こし年2%の経済成長が出来さえすれば、日本は危機的状況から脱することができるというのが飯田たちの論調である。それはそれで非常に納得するところが多いのだが、どうやって経済成長に向かっていくのか?
エピローグの対談で飯田が、もっと人口の都市集中があった方が税の不公平はなくなる、と述べていたが、私はこれに納得が行かない。所詮都会のエリート校出身者が地方の現状も知らずに述べていることのように思えてならない。

・青砥恭「ドキュメント高校中退 いま、貧困がうまれる場所」(ちくま新書)



高校中退者が貧困層を形成せざるを得ない実情を追跡した本。現場密着のレポートだけに、取り上げられている例が凄まじい。正視できないような事例もある。

・榎本泰子「上海 多国籍都市の百年」(中公新書)



これはなかなか面白い本だ。上海の歴史的定点観測なのだが、「租界」というものの成り立ちを個々まで詳しく述べている本はないのではないか。また、上海に集結したさまざまな民族ごとに章立てがされていて、イギリス人やフランス人、日本人ばかりでなく、白系ロシア人コミュニティーやユダヤ人コミュニティーのことが書かれていて興味深かった。

・中島岳志「インドのことはインド人に聞け!」(講談社)



近くの書店で「上海」「文藝春秋にみる『坂の上の雲』とその時代」とともについ買ってしまった。インドの英字新聞の記事を取り上げてそれに中島が解説をしているという内容だが、インドの現状は日本人のインド像とは違って、かぎりなく先進国が抱える社会問題に近いものがある。周辺地域から隔離された団地、受験競争、自殺・・・ほとんど日本と変わらないことに驚く。
それにしても中島岳志の名前ででる本が多すぎる。新進の学者を使い捨てるようなことにならなければいいが。

・瀬戸口明久「害虫の誕生 虫からみた日本史」(ちくま新書)



弊社図書館から何の気なしに借りたのだが、面白かった。「害虫」という概念は近代以降のもので、ゴキブリなども害虫とは認識されていなかっただけでなく、「コガネムシ~は金持ちだ~のコガネムシとは実はゴキブリのことだという。農業に被害を与える虫を退散させるのに、宗教的儀式(例えば「虫送り」)からどうやって科学的な知識に裏付けられた駆除方法に変化していったのか?ここにはそれが述べられている。

・大豆生田稔「お米と食の近代史」(吉川弘文館)



「害虫の誕生」にあった参考文献リストから興味を持ち弊社図書館から借りた。内容は精密な学術論文に近く、時々意識が飛びそうになる部分もあったが、要点は、日本のコメ自給とは1970年代に達成されたもので、それまでは自給ができていなかったこと、特に明治後期は人口増加率が高く、コメ輸入に躍起になっていたこと、コメの輸入・移入に朝鮮半島や台湾といった植民地が重要な役割を果たしていたこと、であろうか。コメの自給が40年前までできていなかった、ということを今はほとんど意識することがない、ということが発見であった。

・文藝春秋編「文藝春秋にみる『坂の上の雲』とその時代」(文藝春秋)



過去の文藝春秋に掲載された日露戦争に関わる記事の集成。多くは司馬遼太郎「坂の上の雲」で紹介されているものが多いが、改めてさまざまな人の手になる文章を読むと、別の臨場感がある。
さて、今年のドラマ「坂の上の雲」は普段大河ドラマを見ない我が家でも毎回欠かさず見たが、毎回1時間30分と長く堪能できるところはいいが、途中便所にも立てないほどの濃縮版で、休むところがない。豪華キャストにも毎回唸ってしまう(ほんの一瞬しか出なかったが、特に大山巌を演じる米倉
斉加年がいい味を出しており、今後に期待したい)。果して来年はどう描かれるのか。