2022年8月に読んだ本

政治関係
・鮫島 浩 著「朝日新聞政治部」(講談社)

book2022.45
もと朝日新聞記者が書いた朝日新聞の変遷と自信の半生を描いたルポ。新聞はここ30年近く低迷の一歩を歩んでいるが、もともと発行部数が多かった故に朝日新聞の凋落ぶりが他紙に比べても激しい。各章の扉に年ごとの犯行部数の減少が朝毎読産4紙明確な数字で表記されている。
新聞社も組織だから官僚的になるのはわかる。特に学歴の高いエリート記者が集中している朝日新聞はそうだろう。私の友人も朝日新聞の記者であるが、記事で紙面を構成する仕事からは遠ざけられている(ような気がする・・)。著者は新人時代から社会部や政治部を渡り歩いて出世街道を歩んでいたが、スクープ記事の頻度で遅れを取ったり、社風に逆らった思い切った組織改革を行って社内の寵児となる一方で上司との人間関係や派閥争いに巻き込まれて次第に閑職に追われた。右翼のみならず一般的な国民からのバッシングも従軍慰安婦問題の誤報容認などで激しかった。ついにジャーナリストとして組織内で生きるよりもフリーで生きることを選択した。それは劇的な半生ではある。全体的にちょっと鼻に付く文章が好きにはなれなかった。経営批判が強く、能力は人一倍なのになぜ理不尽な原因で記者としての才能を生かすことができないのか、というルサンチマンが芬々とする。


・田中 信一郎、上西 充子、鈴木 エイトら 著「日本を壊した安倍政権」(扶桑社)

book2022.47
これはもう2年前に何と保守的なフジサンケイグループの一角である扶桑社から出版された安倍政権批判の本。安倍晋三が他界した今こそ安倍政権の業績総括のために読むべき本だろう。特に最近旧統一教会に関するニュースで露出度が高まっている鈴木エイト氏が一節を書いているので飛びついた。
鈴木エイト氏はもう2年前から安倍晋三と旧統一教会の癒着を書き込んでいた。いわば確実な根拠に基づいた「予言の書」であった。他にも著者それぞれの視点から書かれている内容はうなずけるものだ。
国葬には断固反対する。国会も開かずに閣議決定だけで押し通すのはそれこそ「民主主義への挑戦」として許せない行為である。ことさら「愛国」を叫ぶ自称「保守」の政党には、下手くそな言い逃れしかできない売国的な議員しかいないのか?


歴史関係
・篠田 謙一 著「人類の起源 
古代DNAが語るホモ・サピエンスの「大いなる旅」」(中公新書)
book2022.44
最新の研究成果を元にした人類史に関する本。理科系の知識が必要になるので文科系人間にはなかなかハードルが高いが、新しい発見もあった。人類史に関する情報は絶えず更新され続けているので、定期的に新しい本で脳内情報を更新しないと追いつけない。

・成田 龍一 著「歴史像を伝える 「歴史叙述」と「歴史実践」」(岩波新書)
book2022.42
岩波新書「歴史総合シリーズ」の第2巻目。小川・成田の共著である第1巻目、「世界史の考え方」には幻滅したが、さらにこの本で、高校歴史教育現場での実践にはこの本はほとんど役に立たないと感じた。
著者は日本史研究者なので日本史に寄せた歴史総合の組み立てに役立つような思考と歴史像提供のための資料をあちこちで提示しているのだが、2単位(週2時間。年間実質50数時間。70時間は理屈上である)の歴史総合の授業で、幕末・明治維新にこの本で1970年代の授業計画・実践として例示されている11時間程度の時間を割くことが可能だろうか?確かに年間授業時間を無視して幕末・明治維新だけに特化してこれだけの時間を割けば、多角的な授業はできるだろう。しかし歴史総合は日本史・世界史の近現代史統合科目だから年間授業時間のかなりの時間をそこだけに割くわけには行かない。高校生にはむしろ世界的な流れとして民族や国民国家の概念や、資本主義と社会主義、ファシズムと民主主義、「長い19世紀」と「短い20世紀」を理解してもらうことの方が、現代人としての素養に結びつくと考える。また後半で提示されている豊富な歴史史料を、一教員が渉猟し授業でそれを扱いながら組み立てることが可能だろうか?一年に1時限だけ、というならまだわかるが、毎時間そのような授業は不可能。
二部構成になっているこの本のサブタイトルにもある「歴史叙述」と「歴史実線」についての説明も以前からよくわからない。これらの説明を展開する部分で援用している資料が軒並み50〜70年前の概説本や教育実践のレポートから、というのがますますリアリティを失わせている。前の巻でも大塚久雄の文章から入ったのには驚いた。

やはり高校教育現場とは縁がない学者の空論の域を出ないのではないか。歴史総合はそもそも世界史未履修問題や愛国教育として日本史を履修させたい行政側の意向がないまぜになり、さらに大学の歴史学者たちの高校へのある種の教育内容の丸投げ、理想主義的な思いつきで浮上してきた科目と私には思える。さまざまな期待を込めすぎた結果として、妖怪のような科目になりつつある。世界史初学者である高校1年生にいきなり近現代史の歴史理論を多分に含んだ時代を、日本史を含めて理解させようとするには器が小さすぎる。ものごとを「総合」するには、手順が異なるように思えてならない。歴史総合こそ、自由選択制のもとで大学1・2年生に向けた教養科目講座として組み立てたらどうなのか?高校ではすべての生徒が歴史好き、歴史授業に前向きというわけには行かない。大学で教養性の高い授業が困難だからといって高校に委ねるのは間違っている。

もうほとんど義務感でこのシリーズを読んでいて、高校校長で現場からは離れている小川幸司の第3巻目にも個人的な期待は全くないが、出れば仕方なく買い求めてしまうだろう。



コミック
・信濃川 日出雄 著「山と食欲と私 16」(バンチコミックス)
book2022.49
いつも思うが、この本で一度山で試してみようかと思うレシピはあるが、実践したことは皆無である。仕込みが面倒だから。山での食事は昼食であれば火を使わない、手間をかけないパンやおにぎりで十分だとおもってしまう。目まぐるしい天候変化が予想され、なるべく午後早く下山したいから・・