2020年11・12月に読んだ本

・秋山 武雄 著「東京レトロ写真帖」(中公新書ラクレ)
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浅草橋の洋食屋店主が撮りためた過去の東京の日常をまとめた本。著者の写真集は過去にも出版されているようだが、この本が最も一般に広く販売され手に取りやすい価格の新書判写真集である。撮影された時代は昭和30年代。とてもいい写真があちこちにあって、浅草が実家の同僚にも貸して堪能してもらった。表紙は浅草の「花やしき」にあったアトラクション。背景の家並みが低く、遠くまで見渡せる。

・谷沢 明 著「日本の観光 昭和初期観光パンフレットに見る」(八坂書房)
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昭和初期に一般庶民を含めた観光ブームが起こっていた。JTBの前身、日本交通公社が発足したのが大正初期、ここから雑誌「旅」や時刻表が発刊されたのが昭和初期。各地でも観光誘致のためにパンフレットが多数作成されていた。これらを資料として各地の観光の特徴についてまとめた本。ある広域の観光紹介をする場合には鳥瞰図が用いられることが多く、自分が知っている地域の鳥瞰図を眺めているだけでも楽しいが、残念ながら鳥瞰図は小さく、ルーペで拡大しないと見えないものもある。取り上げた観光パンフレットが東日本に集中していることもあり、北海道(大雪と阿寒中心)・東北(数ヶ所のみ)・日光・箱根富士伊豆・東京近郊・信越地域のスキーに紙面を割いている。個人的には東日本中心なのはありがたく、特に信越地方のスキーについて1章が充てられているのが嬉しかった。妙高、野沢、志賀高原のかつての姿がよくわかる。それに対して西日本の扱いは軽い。中国四国は瀬戸内海沿岸のみ、九州は北半分しか扱っていない。関西近郊の観光地は全くない。

・青木 健 著「ペルシア帝国」(講談社現代新書)
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分厚い新書で、職業的使命感から読み始めたが、かなりこだわりが強い本だった。扱っているのは古代イラン史で、アケメネス朝(ハカーマニシュ)・パルティア王国(アルシャク)とササン朝(サーサーン)が中心。しかし王朝名からして古代ペルシア語・中世ペルシア語の発音にこだわるあまり、世間ではまだあまり広まっていない呼称のオンパレードとなり、注釈もないから王名は推測する他ない(ダレイオスがダーラヤワウシュなど)。したがって大変読みにくく、文章が全く頭に入ってこないので砂を噛むような苦痛にまみれた読書になった。途中でもやめてしまえばいいようなものだが、そこは職業柄一通り目を通しておこうと思って斜め読みせざるを得なかった。
この本の評価を一瞥したところ、かなり厳しいものが見られた。古代ペルシア史についての本はそう多くはないので、今後基礎文献となる可能性が高く、その分の期待が込められての批判ということもできそうだが。
この本にはさまざまな問題(呼称の問題だけでなく、ペルシア語以外の史料の扱い方など)が含まれるようで、ペルシアと関連深い古代ギリシア史に詳しい人たちから反論され、細かな正誤に関する否定・疑問をTwitter上で呈するものもあるようだ。論争の結果、今後より良い研究が進めばいいのだが、こういう論争は水掛け論になって不毛なものに陥る可能性も高いような気がする。当事者同士が議論する(それはネット上でも構わない)のはいいのだが、Twitterのような字数が限定されているツールを利用して細かな揚げ足取りを世界全体に公開するのはどんなものなのか?


・湯澤 規子 著「ウンコはどこから来て、どこへ行くのか 人糞地理学ことはじめ」(ちくま新書 電子版)
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ラジオでこの本について触れていたので電子書籍で読んでみた。著者は境問題についての専門家で、歴史と紀行を通じてさまざまな問題に言及していく。読みやすい本だった。「ウンコ」が冒頭から連発されることに抵抗感がある人はあまり高い評価はできないだろう。

・三浦 英之 著「白い土地 ルポ 福島「帰還困難区域」とその周辺」(集英社クリエイティブ 電子版)
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この本もラジオ番組にゲストとして招かれた著者に興味を持って電子版で購入。著者は現在福島総局の朝日新聞記者。福島第一原発にまつわるできごとを現地で新聞記者として密着して書いている。特に、人口希薄になってしまった浪江町の人々に新聞配達(朝日ではなく福島民友新聞)をしながら寄り添っていくところが印象に残る。それぞれの章は長くなく、隙間時間に読みやすい。

・岡田 哲 著「ラーメンの誕生」(ちくま学芸文庫 電子版)
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ラーメンのみならず麺食(蕎麦・うどん含む)について書かれた本。後半ではインスタントラーメンやカップ麺についての言及もある。これも気楽に読めるが、何かが残るかといわれればそこまでの深みはない。

・内田 樹 著「コモンの再生」(文藝春秋 電子版)
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もうそろそろ新刊を読むのは止めようかなと思いつつ、購入してしまう内田樹の本。現時点でまだ第1章を読んだだけだが、読み始めるとすぐに終わってしまいそうだ。コモン=公共空間について放談したのが第1章だが、「目利き」ができる旦那とその予備軍としての「青年」がこの国ではいなくなってしまったというところが印象に残った。
しかしこれも実は放談の中から編集者が拾って文章に仕立て直したもので、内田自身が文字にしたものではないそうだ。冒頭にこの本の成立事情が述べられていて、対談を文字に起こし、相手の話をすべて切り捨て、さも自分で書いたかのように編集して成立したのがこの本である(種明かしをしてくれた分だけ誠実とも言える)。以前読んだ内田と娘の書簡のやりとりも、おそらく同じような手法(自分自身で文字にしない)で制作されたと想像してしまう。放談の中にキラリと光る興味深いことや、うまくまとめたことが入っているのは内田の優れた才能だと思って感心するが、大学退職後にこういう横着な本の作り方をして印税が入るというのはあまり褒められたことではないなと思う。政権を批判するなら、もう少し自分の立ち位置をしっかりさせてほしいとファンである私は思うのである。


電子書籍で購入した漫画など
・幸村 誠 「ヴィンランド・サガ 24」(アフタヌーンコミックス)
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久しぶりに続刊を買ったので23巻の流れが掴めないまま読み始めてしまった。だいぶ平和になってきたが、これからヴィンランドを目指して航海するまでの間奏曲だったのか?

・野田 サトル「ゴールデンカムイ 24」(ヤングジャンプコミックス)
・「ゴールデンカムイ公式ファンブック 探究者たちの記録」(ヤングジャンプコミックス)

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アニメ版の第3期もこの秋に放映された。アニメでは樺太が舞台だったが、本家ではすでに北海道に舞台が移っている。