2023年1〜2月に読んだ本

・森 万佑子著「韓国併合 大韓帝国の成立から崩壊まで」(中公新書)
book2023.03
大韓帝国が成立したのは1897年、韓国併合が1910年なので、この本で扱っているのはわずか十数年間しかない。しかし、1冊の内容が濃い新書が書けるということは密度濃い歴史的事実が横たわっているということだ。内容はやや専門的で、後半になるにつれ読むのが大変になった。

・橋場 弦著「古代ギリシアの民主政」(岩波新書)
book2023.05
ギリシア史研究の最先端の成果を踏まえながら一般人にもわかりやすい啓蒙書としたもの。世界史の教科書には長らくクレイステネスによる「陶片追放」の制度が書かれてきたが、実は前5世紀の間しか行われていないし、僭主の出現を防ぐための予防策として不人気投票を行ったという従来の説(まだ教科書には記載されている)とはまた別の有力な新説も紹介してくれている。ソクラテスの弟子、プラトンについてもやや皮肉に満ちた評価をしている。

・斎藤 幸平著「ぼくはウーバーで捻挫し山でシカと闘い水俣で泣いた」(KADOKAWA)
book2023.04
『人新世の「資本論」』の著者斎藤幸平が新聞の特集でさまざまな職業を実体験して思索した記事の集大成。大学に勤務しながら行動するこの学者は好感が持てる。

・伊澤 理江著「黒い海 船は突然、深海へ消えた」(講談社)
book2023.06

2008年に銚子沖で起こった第58寿和丸(すわまる)の転覆・沈没事件の原因を追ったルポルタージュ。突然起こった事故により、3名のみ生還、17名が行方不明となった。「えひめ丸」の衝突事故の記憶は鮮明にあるが、この海難事故の記憶は薄い。事故原因が波という結論が出され、潜水艦との衝突が追求されてこなかったためである。著者は綿密に生還者や所属会社社長、事故を検証した人々へのインタビューを行って、単なる高波による沈没ではないことを証明していく。

・渡邉 義孝著「台湾日式建築紀行」(KADOKAWA)
book2023.02
昨年秋に久しぶりに立ち寄った神保町の東京堂書店で買った紙の本。タイトル通り、台湾に残る日本統治時代の建築物を写真と著者のスケッチ、旅行記を交えて扱っている。カラフルで面白そうだと思って購入した。読み通すのに時間がかかったのは、私自身が台湾を訪問したことがなく、日式建築物と名指しされてもよっぽど有名な建物でないとわからなかったこと(台湾の都市名と位置についてはある程度わかっている)、また建築学に特有の用語があちこちにあって、それは巻末にまとめて説明されていることが理由としてある。少なくとも建築用語は同じページに註としてあって欲しかった。

・石塚 真一著「BLUE GIANT 1〜10」「BLUE GIANT SUPREME 1〜11」「BLUE GIANT EXPLORER 1〜8」(ビッグコミック)

book2023.10

人気の高いジャズ漫画を、同名のアニメ映画封切前に一気読み。BLUE GIANTは仙台編と東京編、BLUE GIANT SUPREMEはヨーロッパ編、BLUE GIANT EXPLORERはアメリカ編で現在も連載中である。漫画で音楽をテーマとして扱うという致命的ハンディがあるが、この漫画はそれを感じさせないところが凄い。一直線の主人公には時々疲れるが、それもこの漫画の味である。

最近封切られた同名のアニメ映画もDolbyAtmosの大画面で鑑賞した。ジャズピアニスト、上原ひろみの曲が期待を裏切らなかった。若手テナーとドラマーを交えて素晴らしいトリオのジャズセッションがアニメーション化されている。演奏するJASSメンバーはモーションキャプチャーによってCG化されていて、そこがぎこちなくて気持ち悪いという悪評もあるが、そこまで求めても仕方ないだろうと思えるくらい音楽がよい。衝動的にサウンドトラックをダウンロードしてヘビロテで聴いている。
もう一度観てもいいなあ・・