2023年6〜7月に読んだ本

・井上 文則著「軍と兵士のローマ帝国 」(岩波新書)
book2023.22
発刊後すぐに読みたかったので、久しぶりに紙の本で購入。ローマ帝国、特に共和政時代のローマを理解する上でキーになるのは、ギリシアのポリスと同様の市民(成人男子)が政治と防衛(侵略)の双方を担うというシステムである。共和政ローマが領土拡大を進めていくとこの原則維持が困難になり、軍制も大きく変化して帝政ローマに向かっていく。「軍と兵士」はローマを理解する上で非常に重要なのである。そこを復習するのに役立った。

・鈴木 大介著「ネット右翼になった父 」(講談社現代新書)
book2023.14
著者自身の父親が退職してから亡くなるまでの間になぜネット右翼に変貌していったのかを掘り下げている。同じような世代の人にとって他人事とは思えないような父子関係を振り返っていく。最後は自分に戻ってくるのだが、「ネット右翼」そのものへの掘り下げよりは父子関係が主体になってしまい、自分史を読まされているような気分になってきた。

・岡本 隆司著「曽国藩」(岩波新書)
book2023.13
下関条約の清朝全権となった李鴻章は有名だが、その師、先輩官僚でもある曽国藩はさほど有名ではない。著者は李鴻章、袁世凱についても岩波新書を上梓している。若き曽国藩の科挙合格までの苦労や、老後についての記述でもう少し書き込んで欲しいところはあったのだが、そこは史料が足りないのかもしれない。

・白井 聡著「マルクス 生を呑み込む資本主義 」(講談社現代新書)
book2023.18
マルクス思想と現代資本主義の関係をもう一度復習する本。白井聡の著作は毎回とても読ませる。

・辻田 真佐憲著「戦前の正体 愛国と神話の日本近現代史 」(講談社現代新書)
book2023.24
「保守的」と自称する(私は保守だとは思っていない)人たちが理想とする戦前に見られた「神話」に端を発する制度や習慣が、実は底が浅いものである、江戸時代以前にさかのぼることが難しい、ということは意外と知られていない。あたかも太古の昔から連綿と続いてきているもの、という勘違いが現代の亡霊になっている。「保守派」がこだわる家族制度(まあほとんど神道系宗教や統一教会の影響じゃないかと思われるが)なんてものは明治以降せいぜい昭和30年代までの家族を類型化したものに過ぎないし、この本に書かれるように「神道」にまつわるあらゆることがいかがわしい後付けの歴史になってしまっている。
そこにこだわったのはいいのだが、この本はそこに終始してしまい、そこからの発展がない。読み進めてもいいかげんそこから脱却してよ、と思う。


・井上 義和、加藤 善子編「深志の自治 地方公立伝統校の危機と挑戦 」(信濃毎日新聞社)
book2023.23
この本が対象としている長野県松本深志高校は私の母校である。旧制松本中学の時代から数えると、学校設立年は曖昧だがすでに140年の歴史がある。旧制中学時代から「自治」がモットーであり、私が在学していた70年代末から80年代初頭にかけての時代も、また現在もそれは不変である。その自治について、卒業生や外部の研究者も巻き込んでまとめ上げた本である。商業的にはこの学校卒業生でないとまず売れないと思われ、県内の他地域では一顧だにされないであろう。長野県は盆地の寄せ集め、他の盆地には敵対意識こそあれ、共同意識は薄い。
私は同僚がこの本に寄稿しているので、買わずに同僚から献呈本としていただいた。
研究が進められていると同僚から知らされた時、「あまり意味のない研究を始めたな」と思っていた。その気持ちはいまでも変わらない。ちっぽけな一つの学校内で生徒と教員が紡いでいく「自治」を他校と比較してどうなるのか、という冷めた目で見ていた。なるべくこのプロジェクトから遠ざかっておこうと思っていた。コロナ「禍」というべきか、私から見ればコロナの「おかげで」研究は大げさなものにならずに済んだようだ。本にまとまってからその内容を見ると、卒業生研究者の懐古趣味的な文章もあるが、近年の動向に注視する部分が多く、今の高校生の方が昔よりも「他者を尊重した自治」ができているのではないかと思わせてくれた。その一例が21世紀になって成立し現在まで続いている生徒会予算の折衝を議論によってまとめていく会議「折衝会」であろう。


コミック
・信濃川 日出雄著「山と食欲と私 17 」(バンチコミックス)

book2023.33

・ヤマザキマリ著「プリニウス 12」(バンチコミックス)
book2023.30
ついに「プリニウス」も完結。ぜんそくの発作は伏線だったのか・・

・東本 昌平著「RIDEX 1〜20 」(モーターマガジン社)
book2023.34
ついに買ってしまった。大人買いで20巻まで。まだ半分しか読んでいないが、1話完結なのがいい。フルカラーでバイクと人物の絵がキレイ。男性はほとんどがむさくるしいヒゲ面中年で、女性はグラマラスでセクシーな若い女というのがパターンだが、1話完結なので登場人物の見分けをせずに済む。表紙がセクシーなのはいまの時代なかなか許容されないだろうなあと思って眺めていたら、最近刊の表紙はそこがだいぶマイルドになっている。
昔はバイク雑誌が山ほどあったのだが、最近ではあまり見ない。この漫画は老舗「月刊オートバイ」の特別付録に掲載されてきたものらしい。バイク雑誌もウェブに圧されてしまったなあ・・ツーリングにターゲットを絞った雑誌として「outrider」があり、学生のころ発刊されて第1号からずっと保管していたが、バイクを一時中断した時にすべて処分してしまった。もう日本全国だいだいお決まりのロードサイドになってしまったし、そうではないところを自分で見つけて走ってみるのはツーリングの醍醐味で、見つけたところは大きな宣伝をしようとは思わないから、雑誌から得る情報はあまり欲しいとも思わなくなった・・・バイク漫画ももうほとんど無いのかな?