2018年1〜2月に読んだ本

・星野 智幸著「のこった もう、相撲ファンを引退しない」(ころから)
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新聞書評を見て購入。九州場所からずっと飽きもせず同じ話題を繰り返すテレビ報道に辟易していたので、読後スッキリした。相撲にかこつけて外国人排斥をするのはいかにも程度が低く(程度の低さを本人たちはわかっていない)、しかも日本人力士に対するあの異様な応援(垂れ幕やしこ名の入ったタオルを掲げての応援)は何なのだ?後ろの座席にいると土俵が見えやしない。

・早川 タダノリ著「『ニッポンスゴイ』のディストピア 戦時下自画自賛の系譜」(青弓社)
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昨今は本当に『日本スゴイ』が連発されていて辟易する。ウィンタースポーツは子供のころから好きだし、自分でスキーもスケートも経験しているからテレビ観戦するのが習慣となっていて、日本人選手がメダルを取れば嬉しいのは山々だが、その他にもフィーチャーして欲しい種目とか、外国人選手はいっぱいいる。日本人選手がメダルを取ると繰り返し同じシーンを見させられるのは苦痛だ。そんな空気が蔓延するとどうなるか?戦前の日本礼賛スローガンは今見返すと噴飯物だが、今やそうのんきなことも言ってられないのではないか。

・小林 哲夫著「神童は大人になってどうなったのか」(太田出版)
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「神童」と呼ばれていても大人になればタダの人だ。特定の分野で才能が他の人より少しあって目立つに過ぎない。神童が万能ではない。神童と呼ばれた過去にすがって生きる元神童ほど見苦しいものはない。

・伊藤 薫著「八甲田山消された真実」(山と渓谷社)
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映画の「八甲田山」を観たのは中学生だったか。原作の新田次郎「八甲田山死の彷徨」は読んだか読んでいないか?とにかく八甲田山に対するマイナスイメージが膨らんでしまった映画だった。酸ケ湯などの豪雪が今でも報道される八甲田山系。
映画では、青森第5連隊と弘前第31連隊の2連隊が雪中行軍で結果的に競い、少数精鋭の31連隊を率いる高倉健が無事生還し、200名の大部隊となった5連隊の実質的指揮者である北王路欣也たちは雪の中で低体温症などで斃れていくという単純明快な映画だった。日露戦争前夜の実際のできごとを下敷きにした新田次郎のフィクションが原作であり、この事件の反省からまもなくスキーが導入されることになる、ということは知っていた。「神は我々を見放した」というセリフが有名になった。
この映画を観たり、新田次郎の原作を読んだ人はおそらく八甲田山遭難事件のイメージを固着させていたと思う。この本の著者は元自衛官で、実際に八甲田山での冬季訓練を何度も経験したことがあり、原資料にあたって事件を再構築した。ドキュメント、こちらが真実である。読んでみると、八甲田山遭難事件のイメージが180度変わる。日本の軍隊は明治半ばの時点で既に隠蔽体質、横暴な態度を身に付けていたのだ。これは天災ではなく、無能な上官による大規模な人災である。