2019年3月〜5月に読んだ本


・橋本 治「思いつきで世界は進む」(ちくま新書)
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惜しい人を亡くした。

・伊藤 正一「黒部の山賊」(ヤマケイ文庫)

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遅ればせながら読んだ本。


・小笠原 弘幸「オスマン帝国」(中公新書)
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・橋本 倫史「ドライブイン探訪」(筑摩書房)
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ドライブインは昭和の産物だがとても懐かしい。

・大西 英文「はじめてのラテン語」(講談社現代新書)
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電子書籍で購入、途中まで読んだ。

・ヤマザキマリ・とりみき「プリニウスⅧ」(新潮社)
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うーん、ますますこれからどうなっていくやら・・
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2019年1・2月に読んだ本と観た映画

12月、「アリー/スター誕生」をTOHOシネマズ日比谷観る。スッピンのレディー・ガガが健気でかわいい。
1月、「ホイットニー~オールウェイズ・ラヴ・ユー~」を観ようと思ったが悲しい結末は明らかなので観ずに終わる。ホイットニー・ヒューストンは同い年なのだ。
2月、「
ヴィクトリア女王 最期の秘密」をヒューマントラストシネマ有楽町で観る。主演のジュディ・デンチはヴィクトリア女王を演じるのが2度目だそうだ。インドから連れてこられて結局帰れなかった主人公の相棒が「イギリスは野蛮だ」と言っていたのが印象的だった。
「ファースト・マン」をTOHOシネマズ錦糸町オリナスで観る。アームストロング船長は子供のころのヒーローだ。「ブレード・ランナー2049」でも主人公のレプリカントを演じたライアン・ゴズリングは表情を抑えた演技をさせるととてもいい。後にラジオで深い解説を聴いてもう一度観たくなった。
「ヴィクトリア女王」を観に行った有楽町の映画館でやっていた「小さな独裁者」を観るかどうか逡巡する。結構えぐいシーンがあるらしく、遠のいている。
3月、
「グリーンブック」をTOHOシネマズ錦糸町楽天地で観る。アカデミー作品賞を取って客の入りも良いようだ。ロードムービー、音楽関連映画、といったところは個人的に琴線に引っかかる。そこまでメッセージ性の強い映画ではないが、コメディとして楽しかった。

・山とスキー編集部「山スキールート 212」(山と渓谷社)
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結構分厚いルート紹介本で、「ハイグレード山スキー」(東京新聞出版局2007年)や「山スキー百山」(山と渓谷社2015年)以来のものだと思う。
地方に行くと県の山スキーエリアを紹介した本を見かけることがあって、偶然の邂逅を大切にして買うことにしているが、全国的に販売される大手出版社から出るものは最近少なくなってきた。ネット情報がより有用になってきたからだろう。しかし「山スキールート図集」などは古典的で写真もメチャクチャ古いが、この中に忘れられたツアールートが書き込まれていたりする。
この本の内容としては、やはり山スキーができるエリアの中から厳選する方式なので、マイナーなルートまで紹介できているわけではない。


・木畑 洋一 著「定刻航路を往く」(岩波書店 シリーズ日本の中の世界史)
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・小谷 汪之 著「中島敦の朝鮮と南洋」(岩波書店 シリーズ日本の中の世界史)
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このシリーズはとても面白い。イギリスが開いた帝国航路を行き交った日本人の手記を通じて幕末以後の日本人の
アジア観を知ることができるのが前者、作家中島敦が少年期に住んだ朝鮮と、太平洋戦争開始前後に社会人になってから赴任した「南洋」を活写したのが後者。
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2018年12月、2019年1月に読んだ本

この間、読書量は減っている。理由は、毎日の通勤時間帯にダウンロードしたラジオ番組を聴くのが習慣化しており、帰りもネットでラジオを聴いているためである。おもにTBSラジオの番組を聴いている。そのため、混んだ電車の中で本を広げるのはなかなかしんどくなってきている。そうでなくても冬はスキーのことが頭の半分くらいを占めているので上の空であることが多く、落ち着いて読書ができていない。

・佐藤 徹也 著「東京発 半日徒歩旅行」(ヤマケイ新書)

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気楽に公共交通機関を使って散歩気分で出かけられるプランがたくさん載っている。スキーシーズンが終わったらこの本を使って多摩方面などへ出かけてみたいと思う。


・松本 修 著「全国マン・チン分布考」(インターナショナル新書 集英社インターナショナル)
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性器の呼称の分布を追った真面目な言語学の本だが、著者は「全国アホ・バカ分布考」を書いたテレビ業界(「探偵!ナイトスクープ」プロデューサー)の人である。内容は極めて学術的だが、文章は平易で読みやすい。研究者が羞恥心からしり込みする性器の名称を徹底して追っている。日本の言語学・辞典作成の権威たちが怠ってきたことを告発する部分は特に圧巻。

・木庭 顕 著「誰のために法は生まれた」(朝日出版社)
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著者はローマ法の研究者。法を大上段から論じるのではなく、「近松物語」「自転車泥棒」などの映画や、ギリシア悲劇などの古典文学作品を高校生と味わい、論じることで法の本質をえぐり出そうとしている。読みやすくはあるが、法律そのものを扱うわけではないので、法律論としてはちょっとインパクトに欠けるか?

・南塚 信吾 著「『連動』する世界史」(岩波書店 シリーズ日本の中の世界史)
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外国史研究者による日本の歴史と世界史との接点を追求するシリーズの第一回配本。読み始めてすぐに意欲的なシリーズだと感じた。著者はハンガリー史が専門だが、アヘン戦争をめぐる19世紀の列強の個別状況や日本でのアヘン戦争に対する対応、米国のペリーをはじめとする列強との関係について論じている。専門を外れて文章を書くことは研究者にとってはとても勇気のいることだが、非常に分析は明晰で、いろいろと参考になる論考である。味わってゆっくり読んでいるのでまだ4分の1ほどしか読んでいないが、今後が楽しみな本である。
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2018年10・11月に読んだ本など

暑かった夏以後劇場で見た映画は、「ボルグ/マッケンロー 氷の男と炎の男」「ボヘミアン・ラプソディー」の2本。秋は忙しかった。ともに実在の人物を主人公にし、一定年齢以上なら同時代を共有したスーパースターを描いた映画だった。
「ボヘミアン・ラプソディー」は現在かなり評判がいいが、そこまで評価が高まる映画だとは予想していなかった。封切り3日目に日本橋で観た時にはすでにパンフレットが売り切れていたところをみると、業界でもそこまで客が入るとは予想していなかったのだろう。
音楽が主役の映画だから、少し奮発して音響効果の優れた大画面のドルビーアトモスで観た。夫婦割ならそこまで厳しくはない。予想通り、圧巻だった。最後のライブエイドの20分の4分の3は涙が止まらなかった。その後パンフレットを購入がてら日比谷で2度目の一人鑑賞。これも涙をグッとこらえて最後まで見た。劇場を出てからも頭の中でクィーンの曲がリフレインし、帰ってからも動画や曲をかける始末。CD時代になってから「グレイテストヒット」ともう一枚くらいしか持っていないのでアルバムの片隅にある曲を思い出してYouTubeなどであらためて聞いてみる。
振り返れば中学から高校くらいまでクィーンよく聞いていたし、友達とよくクィーンを語っていたなぁ・・・青春ドンピシャのミュージシャンの映画は泣けてくるよ・・・

さて、読んだ本と読みかけの本です。
・J・ウォーリー・ヒギンズ「秘蔵カラー写真で味わう 60年前の東京・日本」(光文社新書)
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新書だともったいないくらい美しいカラー写真に彩られた昔の日本。自分が生まれる少し前から生まれた直後くらいの日本全国の写真がちりばめられている。東京生まれ・育ちではないので懐かしいと思う風景はないが、地方の写真には何かを感じる。著者は軍属として来日し、軍を離れてからも国鉄やJRの仕事を現在まで続けながら日本各地の鉄道をカメラに収めているという筋金入りの『鉄』ということだが、そちら方面はあまり詳しくないので、外国人でこんなに日本の鉄道に入れ込んでいた人がいたとは驚きだった。読むべき文字は少ないので分厚い割にはすぐに読み終わってしまう。しかし手放したくなくなる。

・臼杵陽「『中東』の世界史」(作品社)
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臼杵さんは中東の専門家である。若いころ、土曜日にアジア経済研究所で開かれた研究会に顔を出していたことがあり、そこの若手研究者としてお見かけしたことがある。その後イスラエル・パレスティナ問題に関する書物や、日本のイスラーム研究史に関わる書物を問うている。個人的には10年ほど前に発汗された「大川周明 イスラームと天皇のはざまで」(青土社)が印象にある。
今回の本は、中東からの切り口で近現代の世界史を見るとどうなるのか、というテーマの本で、今のところ3分の2ほど読んだが、いとおしいので読み終えるのがもったいなく、わざとゆっくり読んでいる。


・輿那覇潤「知性は死なない 平成の鬱をこえて」(文藝春秋)
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電子書籍で購入して読んだ。かつて「中国化する日本」で有名になった若手研究者がその後鬱になり、大学の教職から離れて治療を進め、回復する中で書いた書物である。内容は重々しいが難しい論理や表現で書かれた本ではなく、一般の読者にも取りつきやすい。しかしどうにも評価しにくい本である。

・馬場公彦「世界史の中の文化大革命」(平凡社新書)
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これまた電子書籍で購入し、半分までは読んだが現在中断している。早く読まなくては。インドネシアと文化大革命の関係に対する理解は自分の中で深まったと思う。
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2018年8・9月に読んだ本

この夏はバラエティに富んだ本を読み、映画も比較的多く鑑賞した。
特に歴史マンガを単行本45冊ほど電子書籍で読んだ。

・幸村誠「ヴィンランド・サガ」(アフタヌーンKC)
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ヴィンランド・サガは既刊21巻。11世紀の北海・バルト海周辺のヨーロッパ各地が舞台。
最初は血なまぐさいし主人公に人間性が感じられないが、しだいに性格が変化していき、ノルマン人が拡散した世界の縁まで舞台が拡大していく。「ヴィンランド」のタイトルから推測するに、北米大陸へ向かうことになるだろう。2019年にアニメ化決定とのことだ。

・惣領冬実「チェーザレ」(KCデラックス・モーニング)
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チェーザレはチェーザレ・ボルジアを主人公とした話。既刊11巻で、ようやく神学部の学生から司教になったところで停まっている。惣領冬実さんは女性漫画家なので、人物の輪郭線が細くてみな一様にイケメン。用語解説や執筆協力の専門家の文章なども載せられていて、舞台はほとんどピサなのに、登場人物も多くて読み進めるのに時間がかかる。教皇、メディチ家の当主、ダ・ヴィンチ、ミケランジェロ、コロンブス、サヴォナローラなどが現れる。

・カガノミハチ「アド・アストラ」(ヤングジャンプコミックス)
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アド・アストラはハンニバル率いるカルタゴとスキピオを中心とするローマの戦いの物語。全13巻。カガノミハチの絵はきれい。全編に渡って人が次々に殺されていくので注意。



・浅見克彦「SFで自己を読む 攻殻機動隊・スカイクロラ・イノセンス」(青弓社ライブラリー)
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電子書籍版にて。攻殻機動隊とスカイ・クロラを論じているので飛びついたが、わかったようなわからないような・・読了するのに時間をかけ過ぎたのも敗因の一つ。

・高橋理「ハンザ『同盟』の歴史」(創元世界史ライブラリー)
・岡本隆司「世界史序説 アジアから一望する」(ちくま新書)
・佐藤彰一「剣と清貧のヨーロッパ」(中公新書)
・澤井繁男「ルネサンス再入門」(平凡社新書)
・長谷川修一、小澤実 編著「歴史学者と読む高校世界史 教科書記述の舞台裏」(勁草書房)
・大橋康一「実感する現代史 現代史」(ベレ出版)

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以上が歴史関係本。『ハンザ』は学術書。『世界史序説』から『ルネサンス』までは新書。『世界史序説』はアジアからの視点で世界史を語っている。『剣と清貧の・・』は修道会について述べているが、本腰を入れて読めなかった。『ルネサンス・・』は電子書籍で。少し視角が変わったルネサンス。
最後の『現代史』は他にあまり例を見ない本で意欲的だが、どう考えても間違っている言葉や不可解な表現がわずかながらある。9月末の時点で半分ほど読み進めた。


・ドリアン助川「線量計と奥の細道」(幻戯書房
・鶴岡由紀子「ばりこの秋田の山無茶修行」(無明舎出版)
・中島岳志「保守と大東亜戦争」(集英社新書)

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エッセイなど。ドリアン助川の『線量計と奥の細道』は、東日本大震災後まもなく何度かに分けて芭蕉の足跡を自転車を使ってたどった旅行記。場所ごとに線量計を出して測定している。この本で綴られている心情を、東北以外に住んでいる人たちは忘れかけているのではないだろうか。ドリアン助川氏が先日新聞に寄稿した樹木希林追悼の文章が出色だった。『線量計・・』でもそうだが、心に刺さる文を書く人だ。

『秋田の山無茶修行』はウェブサイトを運営する「ばりこ」さんが書いた山のエッセイ。焼石岳に登る前日、秋田県の湯沢市の書店で購入。文章が上手くて、HPとはまた違った角度から秋田の山を楽しんでいる。ばりこさんはその後仙台へ引っ越してしまったようだが、秋田の山へは足しげく通われているようだ。焼石岳登山のルートはたまたま同じ東成瀬村からのルートになった。

中島岳志の「保守とは何か?」を問うた新書が『保守と大東亜戦争』。久しぶりに彼の著作を読んだ。「保守」とは永遠の微調整、フランス革命時の理性絶対化を疑うことから始まっている。設計主義的な社会主義とはもちろん相容れないが、設計主義に近い右派思想も保守とは言えない。
読んでみて感じたことだが、やはり最近の一部の人たち(政権に近い人びと)の言説はおかしい。「保守」を名乗るならば、もっと腑に落ちる丁寧な言葉を用いて訴えるべきなのに、他者を認めず話も聞き入れない上滑りで独善的な言説が上から下まで何と多いことか。論点ずらしや逃げ口上、居直り発言など圧倒的に知性が足りない。休刊(廃刊?)した雑誌に掲載された勘違い論文、さらに勘違い論文の擁護論(ヘイトの上塗り)に至っては語る価値もない。

・中川健一「全国2954峠を歩く」(内外出版社)
・小川哲周・オゾングラフィックス「埼玉峠ガイド85」(オゾングラフィックス)
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いずれも電子書籍で。最近肩が痛いので自転車で峠に向かうことがなくなってしまったが、調子が良くなったら歩いてでも峠には行きたい。願望も込めて峠本を眺めた。
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2018年6・7月に読んだ本

・桜井万里子・本村凌二「集中講義!ギリシア・ローマ」(ちくま新書)
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正確に言うと、かなり前に読んでいたが掲載を忘れていた本。
ギリシア史とローマ史の専門家の対談。

・白井聡「国体論 菊と星条旗」(集英社新書)
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これはかなりの力作。最近読んだ新書の中では出色。「永続敗戦論」をさらに明快にした論考は素晴らしい。それにしても、自分たちの言い分とは異なる意見を受け容れられず、何も考えないまま「反日的」などと言い募る連中(現首相を初めとして)のほとんどがこの本の中で展開されている、屈折した卑屈な対米追従の「国体」をまつりあげているのが情けない。

・岡田善秋「日本の秘境」(ヤマケイ文庫)
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自分が生まれる数年前の日本各地の「秘境」の様子。筆者は雑誌「旅」の編集長。
筆者が歩いた場所の多くで、もっと奥まで道路が開通し便利にはなったのだが、一方で奥地に入るバスなどは廃止されてしまい、登山口まで公共交通機関で赴くことは難しい。


・小松久男・荒川正晴・岡洋樹編「中央ユーラシア史研究入門」(山川出版社)
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歴史研究の第一歩のために必要な学会の動向や研究の到達点を示した本。事典的に使える。扱っている地理的範囲が広く、スキタイから始まって東西トルキスタン、モンゴル高原、中国東北部の遼や金などが載っている。後半3分の1くらいが参考文献目録。

・岡啓輔「バベる!自力でビルを建てる男」(筑摩書房)
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13年ほど前から港区三田でビルが建築中である。ビルの名は「蟻鱒鳶ル」。表紙の写真を見てもユニークな建築物だ。7月28日時点でまだ読了していない。
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2018年4・5月に読んだ本

4月、5月とも、なかなか読書が進まなかった。ここに出していない本を含めて3冊くらい平行して読んでいたり、小出しに読んでいたので理解も深まらないのを反省。通勤途中の電車ではなかなか本が開けるようなスペースはなく、もっぱらラジオクラウドの再生に終始していたのも読書が進まない一因だろう。

・本村 凌二著「教養としてのローマ史の読み方」(PHP研究所)

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ローマ史研究家による。非常にわかりやすく、高校生の大学受験用参考書にしてもよい。私はオールドスタイルの勉強しかしてこなかったので、こういう教養書を読むことが最終的には受験にも役立つと思ってきた。効率とテクニックばかりを追求する受験勉強は大嫌いだ。この本を読めば、ローマという社会が何によって駆動されてきたのかがわかる。

・岡地 稔著「あだ名で読む中世史」(八坂書房)
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こういう本は出あった時に買っておかないと後で手に入れようと思っても苦労する。
中世ヨーロッパには面白いあだ名をもつ王がたくさん出現する。「禿頭王」とか「短躯王」などがそれだ。
そこを期待して読んだが、むしろカール・マルテルのマルテルだとか、王朝名とされるカロリングなどについて掘り下げてあった。現代日本は名前のバリエーションがやたらとあるので、あまりバリエーションがない時代や地域について想像が及ばないかもしれない。


・石川 薫、小浜 裕久著「『未解』のアフリカ」(勁草書房)
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二人の共著になっているが、ほとんどの部分は石川氏が書いている。あまり理解が深まらないアフリカに対する視線を修正するにはいい本だろう。読んでいて少し誤植が気になった。
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2018年3月に読んだ本

・西部 邁著「保守の遺言」(平凡社新書)
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最近、亡くなった人の本を手にすることが多くなった気がする。
しかし西部の文章は読みにくい。教養が深いことはわかるが、読みにくく理解しづらい文章を書くのは受け容れにくい。


・酒井 啓子著「9.11後の現代史」(講談社現代新書)
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新刊だが、電子版が出ていたので電子版で読んだ。「現代史」とあるが、地域は中東に限定されている。非常に分かりにくい中東現代史を読み解くにはベースになる本ではないだろうか。ただし、予備知識はあっても慎重に読まないと理解が深まらない。

・半藤 一利著「歴史に『何を』学ぶのか」(ちくまプリマー新書)
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これまた比較的新しいが、電子版で購入して読んだ。中学生にもわかりやすい平易な文章で書かれている。「歴史探偵」と自称する著者による、現代への警鐘もあり、含意に富む。

・吉岡 斉著「新版 原子力の社会史」(朝日選書)
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これまた先日亡くなった著者の本。
TBSラジオで原子力関連ニュースを発信する崎山記者(学生時代の崎山氏を知っている)が勧めていたので購入。日本の原子力政策や原発そのものの歴史を知る上では欠かせない。

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2018年1〜2月に読んだ本

・星野 智幸著「のこった もう、相撲ファンを引退しない」(ころから)
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新聞書評を見て購入。九州場所からずっと飽きもせず同じ話題を繰り返すテレビ報道に辟易していたので、読後スッキリした。相撲にかこつけて外国人排斥をするのはいかにも程度が低く(程度の低さを本人たちはわかっていない)、しかも日本人力士に対するあの異様な応援(垂れ幕やしこ名の入ったタオルを掲げての応援)は何なのだ?後ろの座席にいると土俵が見えやしない。

・早川 タダノリ著「『ニッポンスゴイ』のディストピア 戦時下自画自賛の系譜」(青弓社)
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昨今は本当に『日本スゴイ』が連発されていて辟易する。ウィンタースポーツは子供のころから好きだし、自分でスキーもスケートも経験しているからテレビ観戦するのが習慣となっていて、日本人選手がメダルを取れば嬉しいのは山々だが、その他にもフィーチャーして欲しい種目とか、外国人選手はいっぱいいる。日本人選手がメダルを取ると繰り返し同じシーンを見させられるのは苦痛だ。そんな空気が蔓延するとどうなるか?戦前の日本礼賛スローガンは今見返すと噴飯物だが、今やそうのんきなことも言ってられないのではないか。

・小林 哲夫著「神童は大人になってどうなったのか」(太田出版)
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「神童」と呼ばれていても大人になればタダの人だ。特定の分野で才能が他の人より少しあって目立つに過ぎない。神童が万能ではない。神童と呼ばれた過去にすがって生きる元神童ほど見苦しいものはない。

・伊藤 薫著「八甲田山消された真実」(山と渓谷社)
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映画の「八甲田山」を観たのは中学生だったか。原作の新田次郎「八甲田山死の彷徨」は読んだか読んでいないか?とにかく八甲田山に対するマイナスイメージが膨らんでしまった映画だった。酸ケ湯などの豪雪が今でも報道される八甲田山系。
映画では、青森第5連隊と弘前第31連隊の2連隊が雪中行軍で結果的に競い、少数精鋭の31連隊を率いる高倉健が無事生還し、200名の大部隊となった5連隊の実質的指揮者である北王路欣也たちは雪の中で低体温症などで斃れていくという単純明快な映画だった。日露戦争前夜の実際のできごとを下敷きにした新田次郎のフィクションが原作であり、この事件の反省からまもなくスキーが導入されることになる、ということは知っていた。「神は我々を見放した」というセリフが有名になった。
この映画を観たり、新田次郎の原作を読んだ人はおそらく八甲田山遭難事件のイメージを固着させていたと思う。この本の著者は元自衛官で、実際に八甲田山での冬季訓練を何度も経験したことがあり、原資料にあたって事件を再構築した。ドキュメント、こちらが真実である。読んでみると、八甲田山遭難事件のイメージが180度変わる。日本の軍隊は明治半ばの時点で既に隠蔽体質、横暴な態度を身に付けていたのだ。これは天災ではなく、無能な上官による大規模な人災である。
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2017年12月に読んだ本

・遠藤 正敬著「戸籍と無戸籍 『日本人』の輪郭」(人文書院)
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ラジオ番組に出演していた著者のトークを聞いて購入。学術書ともいえる重厚な研究であった。
近代の戸籍は壬申戸籍から始まるが、まもなく戸籍の本来の意味は失われていった。現在、本籍地とはどの程度の意味があるものなのか?
子どもが警備員のアルバイトをする際に、戸籍謄本の提出が必要とされてやむなく遠隔地から発行してもらった。しかしこの本を読んで考えてみれば、そんな大げさな書類を提出させることは社員差別に無頓着な会社であることを宣言しているようなもので(つまり日本国籍を有しないと雇用されないということ)、CMでも派手な会社宣伝を行っている大手警備会社のくせに、とんでもないブラック企業だったことがわかる。
戸籍の代わりに住民票があり、こちらの方が現在は意味が大きい。しかしさらにさまざまな番号(その時その時の国家の都合で多重に番号を割り当てられている)で我々は管理されていて、ほとんど戸籍は無意味だ。しかも無戸籍の人が多数存在し、生活上不都合を被っているのは理不尽である。


・岩鼻 通明著「出羽三山 山岳信仰の歴史を歩く」(岩波新書)
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夏に月山に登り、ずいぶん前に湯殿山神社のご神体を拝んだが、出羽三山の山岳信仰に興味を持ったため、購入し東北のスキー場行脚の最中に読んだ。山岳信仰って、なぜかわからないが魅かれるものがある。この本を読むと、自分で修行をしようとまでは思わないが、出羽三山に残されたさまざまな登山口から実際に登ってその文化を体験してみたいと思わせる。
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2017年10月・11月に読んだ本

読書の秋なのに多くの本は読めなかった。なんだか年を追うごとに忙しい。忙しいことを理由に読書しないのは怠慢を棚上げしているに過ぎないのだが・・・

・山口 裕之著「大学改革という病」(明石書店)
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教育に関する改革は必要だとは思うが、朝令暮改的な改革は意味がない。最近の教育改革はちょっとした社会現象に左右され過ぎている。特に近代資本主義社会では、実利を追求しすぎ、それを教育に負わせることに躍起になっている。かなり抑圧的な時代であっても、まっとうな人を輩出してきた歴史をどう捉えたらいいのだろうか。

・明治大学現代中国研究所編「文化大革命 造反有理の現代的地平」(白水社)
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文革についての論文集。広西で相当ひどい虐殺・暴力事件が行われていたことについては、この本で知った。文革期の破壊はすさまじい破壊だったということは聞いているが、日本でこのようなできごとが起こりうるだろうか?習近平の権力が圧倒的になり、党規約に「習均平思想」なるものが書かれるようになった現在、文化大革命の狂気を理解することは大切であろう。


・カレン・アームストロング著 小林朋則訳「イスラームの歴史」(中公新書)
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イスラームの理解のために必要な本の一冊であろう。コンパクトにまとまっているが、この本を読む前にある程度教科書的な知識は必要かもしれない。
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2017年8月・9月に読んだ本から

この夏は、宗教関係の本をよく読んだ。それに飽きてきたので上記の2冊を読んだ。

・高谷 好一著「世界単位 日本」(京都大学学術出版会)
「世界単位論」(同出版会から既刊、未読)の続編で、世界単位とは地域の風土に根ざした文化圏ということのようだ。日本国外の地域風土については、実際に現地を訪れた経験が踏まえられていて興味深い。日本史と絡めた後半部分については、かなり独断的な推論に基づく部分もあり、著者の土台とする学説の信頼度が私にはよくわからない。

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・岩﨑 周一著「ハプスブルク帝国」(講談社現代新書)
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オーストリアハプスブルク家の歩みを中心に現代まで追った啓蒙書で、類書はほかにないだろう。帯の宣伝文句通りよくわかる。1,000円もする新書で、かなり分厚く、往復の電車で読み切るのにずいぶん時間がかかった。



宗教関係の書物は面倒くさいのでまとめて挙げておく。これでも一部であり、強皆おる部分だけ読んだ本もある。
特に島薗進、櫻井義秀の著作は、死にまつわる現代人の問題をよくえぐり出していると思う。
最近は遺品整理や散骨も含めてビジネス化が進んでいるらしいが、どう考えたらいいのだろうか。

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2017年7月に読んだ本から

複数冊平行して読んでいるのだが、仕事山行やら外出が多く、いずれも読破していない本が多いので、かろうじて読み終えた以下の2冊。

・川本 三郎著「『男はつらいよ』を旅する」(新潮選書)
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個人的には1970年代半ばまでの初期の『男はつらいよ』シリーズが好きだ。著者も述べているように、昭和の記録としてさまざまなものが「動態保存」されているからだ。もちろん、本編のドタバタストーリーもエネルギーに満ちあふれている。しかし、さりげなく東京下町や地方の風景が切り取られているのはたまらない。

・桜田 美津夫著「物語 オランダの歴史 大航海時代から『寛容』国家の現代まで」(中公新書)
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新書は移動時の読書用に持ち歩くことが多い。しかし今回はあまり移動中や仕事山行中のひとときを読書に当てることができず、末尾の現代オランダについては飛ばし読みになってしまった。
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2017年6月に読んだ本から

6月は4冊。歴史関係本が多いが、山室信一の労作と、MINERVA世界史叢書の1冊を手にして読めたことは収穫であった。

・山室 信一著「アジアの思想史脈 空間思想学の試み 近現代アジアをめぐる思想連鎖」(人文書院)
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・長谷部 史彦著「オスマン帝国治下のアラブ社会」(山川出版社 世界史リブレット)
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・京須 利敏著「信州の相撲人 雷電から御嶽海まで」(信濃毎日新聞社)
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雷電だけが相撲史の中で燦然と輝いているが、御嶽海が登場するまで本当に信州出身力士は乏しく、青森や鹿児島が羨ましかった。

・羽田 正編「地域史と世界史 MINERVA世界史叢書」(ミネルヴァ書房)
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2017年5月に読んだ本から

・天野 郁夫著「帝国大学 近代日本のエリート育成装置」(中公新書)
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著者は教育史の第一人者。戦前の大学は7つの帝国大学を中心に確固たる地位を確立し、慶應・早稲田を筆頭とする私立大学が認可されるのは1920年のことである。つまり大正半ばまでは、「大学」とは帝国大学以外に存在しなかった。しかし、総合大学をめざしていた帝国大学も、東京帝国大学を除いては総合大学の体裁を為していた、とは言い難い側面があった。

・藤澤 房俊著 「ガリバルディ イタリア建国の英雄」(中公新書)
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イタリア統一の三傑、といえば、サルディニア王国の首相カヴール、青年イタリアのマッツィーニ、そして青年イタリアから自立して武の人となり、名声を博したガリバルディであるが、その生涯を描いた本。ガリバルディは明治期の日本でも有名であり、西郷隆盛と比較されてもいたという。

・土屋 喜敬著 「相撲 ものと人間の文化史179」(法政大学出版会)
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国技館に付属する相撲博物館の学芸員が著した相撲に関する本。相撲を学術的に取り上げた本としては最新(2017年4月初版)のものであり、新田一郎「相撲の歴史」以来ではないだろうか。
五月場所も3日目に観戦したが、いまや連日満員御礼で、チケットを取るのに大変苦労した。技量審査場所等という名前でチケットをタダで手に入れられたどん底の時代からすると隔世の感がある。もう10年以上、年3回の東京場所の生観戦は続いているが、いつまで続けられるか?
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2017年4月に読んだ本から

・池田 嘉郎著 「ロシア革命 破局の8ヶ月」(岩波新書)
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ロシア3月革命から11月革命の成就までを描いた本。多くの人名が現れるので、ロシア革命の概要を知らないとなかなか入り込めない。しかし最新の学説をまとめている。

・塚田 穂高 編著「徹底検証 日本の右傾化」(筑摩選書)
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今月もっとも面白く読み進められた本。本当に日本の世論は右傾化しているのか、右傾化の背景には何があるのか。さまざまな著者の文章がそれぞれ深く、興味深い。個人的には最近のネットによく上がっている「ニッポン偉い!」という論調の文章を苦々しく思っているし、公共放送の番組内容は「ニッポンチャチャチャチャンネル(NCC)」と化しているように思っているので、この状況は何とかならないかと思っているのだが、政権与党と宗教団体の結びつきは強く、そう簡単に何とかなりそうな状況にはない。

・毛利 眞人
「ニッポン エロ・グロ・ナンセンス」(講談社選書)
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大正末期から昭和初期の歌謡曲に見られるエロ・グロ・ナンセンスを解明した本。「テロよりエロ」や「イット」という流行語に興味を持った。

・和田 靜香
「スー女のみかた 相撲ってなんて面白い!」(シンコーミュージック)
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よく行く書店で平積みになっていて、気になっていた。著者はこの本の中で実際に相撲を取り始め、大会にも参加している。その行動力には脱帽。内容も、ただ単にミーハーな相撲ファンというわけではなく、外国人力士に対する見方などはとても健全である。もういいかげん、「日本人力士」「外国人力士」などという分類はやめたほうがいい。
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2017年3月に読んだ本から

・横山 宏章 「孫文と陳独秀」(平凡社新書)
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孫文は有名だが、どうも辛亥革命の立役者として評価され過ぎているきらいがある。陳独秀は中国共産党創始者の一人で、高校世界史の教科書にも掲載されているが、名前以外にその功績が知られていない人物だと思う。この二人を交錯させながら第一次国共合作までを描いている。陳独秀という人物について深く知ることができたのは収穫だった。

・国谷 裕子 著「キャスターという仕事」(岩波文庫)
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話題の本でもある。弊社図書館では岩波文庫はすべて購入しているので、まだかまだかと待っていて、誰よりも先んじて借りることができた。国谷さんは幼少期に米国と日本と香港の学校を次々に転校していて、日本語よりも英語の方が堪能で、大学も米国の大学を出ている。彼女のコンプレックスはきちんとした日本語が扱えない、ということだったそうだ。テレビで報道の仕事を始めてからも失敗の連続でずいぶん落ち込んだという。23年間続いた「クローズアップ現代」の仕事ぶりからは想像もできない過去だ。そして、一番すばらしいと思ったのが、日本語が不得手だったという国谷さんのこの本の中には、とても美しい日本語がつづられていることだ。国谷さんがしばらく充電して再び報道やインタビューで活躍されることを願っている。

・勢古 浩爾 著「ウソつきの国」(ミシマ社)
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勢古浩爾の本はだいぶ前にまとめて読んだことがある。非常にまっとうな感覚の持ち主で、彼の書いた文章を読むことで虚勢を張らなくても生きていかれるようになったと思っている。久しぶりに彼の本を買って読んでみたのだが、予想に違わず、最近ちょっとおかしいぞと思いながらも公言はできなかったり、言葉で表現することが自分ではできなかったことがつぎつぎにあばかれていくのを読むのは爽快だった。やはりミシマ社はまっとうな本を出す出版社だ。
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2017年2月に読んだ本から

2月はすべて弊社図書館から借りた本。ジャンルが偏っているのは同僚がごそっと地形関係の本をリクエストしたことと、弊社図書館がごそっとリクエスト本を購入したため。

・今尾 恵介
「鉄道でゆく凸凹地形の旅」(朝日新書)
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山手線の高低差は、地形図を入れてくれるとよりわかりやすかったのだが、そのくらい自分で傍らに置いて読んだ方がいいということか。その他の路線には地形図もついているが、現実には自分で乗ってみないと実感は難しい。

・本田 創 「地形を楽しむ東京『暗渠』散歩」(洋泉社)
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写真入りで克明に暗渠が紹介されているが、高低差が多い山の手地域の暗渠に偏っているため、自分で歩いて確かめることはできない。谷中あたりを歩いてみるとそれっぽい場所はあるのだが・・

・芳賀 ひらく
「江戸東京地形の謎」(二見書房)
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古地図から江戸時代の地図、明治初期の地図、現在の地形図に高低差を色分けでプロットした画像があって、銀座・浅草近辺の微高地や文京区の崖と谷がどのように利用されてきたのかがわかる。山手線以東で深川以西の場所に限定されているが、東京在住以外の人にはわかりにくいだろう。自転車でも微高地というのはわかりにくいものだ。

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2017年1月に読んだ本から

・乗松 優 「ボクシングと大東亜」(忘羊社)
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読み終わった。しかし今になってメモなど取っておかなかったのでもう月が変わって印象が薄れてしまった。

・福永 文夫 「日本占領史 1945〜1952」(中公新書)
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2014
年に出た本なので新刊ではないが、年末に他の本と一緒に購入した。読売・吉野作造賞受賞と帯にあったから堅実な本だろうと思ったし、サブタイトルに「東京・沖縄・ワシントン」とあり、沖縄にも注目していて読むに値すると思った。
終戦までよりも、終戦後の占領期について全体をまとめた本というのをしっかりと読んだことがなかったので、内容は多岐にわたっているが通勤中に断片的に読み続けても興味が落ちなかった。

・高橋 源一郎 「読んじゃいなよ! 明治学院大学国際学部高橋源一郎ゼミで岩波新書をよむ」(岩波新書)
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サブタイトル通り、高橋ゼミの学生を中心に読み進めてきた本の著者(哲学者・鷲田清一、憲法学者・長谷部恭男、詩人・伊藤比呂美)を明治学院大学に招き、著者と学生との対話をまとめた本。学生たちが岩波新書以外の著者の本を複数読み込んでいて、質問も鋭い。
「読んじゃいなよ!」というタイトルが個人的にはあまり好きではないが、高橋源一郎流なのだろう。
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2016年12月に読んだ本から

・西谷 修 「アメリカ 異形の制度空間 」(講談社選書メチエ)
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これからアメリカはどこへ行こうとしているのか?まだ正式に大統領に就任していない人物の発言に世界が右往左往し、日本の首相は節操なく就任前の彼に会いにわざわざ出向いていく。冷静に考えれば異様である。そもそもアメリカ合国(この国名も意訳)だけがアメリカ大陸の他の国々を差し置いて「アメリカ」と呼ばれるのか?誰もが抱くが突き詰めようとしない疑問から著者は歴史的に説き始め、アメリカ合衆国が持つ排他的な「自由」の淵源を探り当て、それが世界に発信され押し付けられる現実をえぐり出していく。新聞で見つけた小さな書評コラムから購入したが、時間をかけて読むにふさわしい内容だった。

・浜本 隆三 「クー・クラックス・クラン: 白人至上主義結社KKKの正体」 (平凡社新書)
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白い目出し三角帽に白いガウンで有色人種に対して集団でリンチを行う白人至上主義の秘密結社、KKK。そのルーツと紆余曲折はどのようなものだったのか?KKKの名前は有名だが、その歩みは意外と知られていない。冒頭のコスチュームも、実はモノクロ映画でコントラストを明確にするための演出によって知られたものらしい。アメリカが抱える多民族性ゆえに、社会の中心たろうとする白人たちの不安と不満がこのような秘密結社を形成させた、というのは、秋の大統領選挙と通底するものがある。

・乗松 優 「ボクシングと大東亜」(忘羊社)
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現在途中まで読み進めている。読了後にあらためて書きたいと思っているが、今のところ読書に集中できない出先や、半分寝落ちしながら小刻みに読み進めているのでなかなか入り込めないでいる。戦中の「大東亜」という忌まわしき呼称を「東洋」にすり替えて興業としてのボクシングによって賠償や補償を抜きにして再びアジアに関わっていこうという動きがあり、そこに敗戦までの右翼やかつての革新官僚、暴力団などが関わっていたという。ちゃんと通して読めばかなり面白そうなのだが・・
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2016年11月に読んだ本から

・立石 博高・内村俊太 著・編集「スペインの歴史を知るための50章」(明石書店)
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このシリーズは弊社図書館にすべてあるので今まで自分で買ったことはなかったが、最新刊だったので買ってみた。所々の小ネタが面白い。

・米山 悟 「冒険登山のすすめ」(ちくまプリマー新書)
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弊社図書館で借りた。NHKカメラマンで、私と郷里を同じくする著者は高校生時代から一人で山に入っていたようだ。と思って読んでいたら、高校生時代のエピソードが2箇所ほどあり、私と同じ高校の出身者であることが判明。生まれ年も1年しか違わないので、1年後輩か同じ学年か?同じ学年とすると、知っている山岳部メンバーの中にはいなかったような気がして、他に同じ学年に一人で山に入る人はいそうにないので、勝手に一つ下の学年に所属していたと解釈した。
思わぬ出会いだ。著者は北大に進学して山岳部に入り、北海道の山を少数精鋭で登っていたらしい。大学の時の山の経験をベースにしてこの本は書かれており、スキー登山やイグルー作りなどについてもページを割いている。
一日で読んでしまったが、あまり類を見ない登山入門書で、決して少年だけに向けた本でなく、よいと思った。

・吉見 俊哉、平田 宗史、入江 克己、白幡 洋三郎、木村 吉次、紙透 雅子 「運動会と日本近代」(青弓社ライブラリー)
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弊社図書館で借りた。運動会は日本の近代史の中でどのように定着していったかがテーマとなっている。簡単に結論を言えば国策と集落や村の「祭り」が合体したもので、上からと下からの動きが学校行事にとどまらない広がりを持つようになった原因だ。都会の学校はあまり地域の人々に開かれた運動会にはなっていないが、私が経験した昔の地方の小学校の運動会は確かにそういう側面が少し残っていた。競技としての運動会と祭りとしての運動会が両面あったと思う。
それにしても、今となっては競技名からは容易に想像できない競技が昔は行われていたのだなあ・・

・宮本 常一 「私の日本地図2 上高地付近」(未来社)
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本屋の新刊本として並べられていたので自分で買った。宮本常一の著作はそれなりには読んだけれど、最近「私の日本地図」が15巻本で復刊していたとは知らなかった。この本は15巻の最後に出たもので、これでシリーズは完結。しかし残り14冊をすべて買う気にはならないので、近いうちに借りて読もうと思う。弊社図書館にはこのシリーズがない。もう50年前の紀行文だから、入れてもらっても読者は私だけということになりかねない。
1965年に宮本たちが調査した梓川沿いのダム建設当時の集落の記録がモノクロ写真とともに残されている。松本から高山に抜ける国道はまだ狭い上に未舗装だということがわかり、乗鞍高原(番所)の集落の素朴さや白骨温泉の鄙びた感じがとてもよい。
変わらぬものは松本城天守閣のみだ。
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2016年10月に読んだ本から

レビューを書くのが面倒くさいが、読書の秋だし、久々に再開してみるか・・
もっと多くの本を読んではいるが、中でも印象に残った本のみを掲載することにする。

・二宮 敦人 「最後の秘境 東京藝大:天才たちのカオスな日常」(新潮社)
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言われてみれば、芸術系大学の中で東京芸大だけが美術と音楽が同居する大学だ。ここに集う変人学生たちはとても面白い。

・内澤 旬子 著「漂うままに島に着き」(朝日新聞出版)
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屠畜紀行や癌など、自分自身で体験・実行したことをまとめてきた著者が、ついに東京を捨てて小豆島へ生活基盤を移すことになった。その顛末記。東京はオリンピック関連のニュースで大騒ぎ。いっそ返上した方がいいのでは?と思う。そういう点で東京に対する思いは私も著者と同じだ。しかし、地方に行っても仕事の面で潰しが利かないからなあ・・


・加藤 陽子 著「戦争まで 歴史を決めた交渉と日本の失敗」(朝日出版社)
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「それでも、日本人は『戦争』を選んだ」と同じ形式をとった続編。はっとさせられることが多かった。トピックが少し飛び飛びになっていて、少々わかりにくいところも。

・角幡 唯介 著「漂流」(新潮社)
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著者は極地探検などを自身でしながらルポを書いている、とのことだが、私は過去に著者の本を読んだことがなく、この本が初の出会いだった。漂流物には目がないので手が出て購入に至ったが、海のことを題材に書くのは始めてのようだ。著者が追っているのは人生で2度漂流し、2度目の漂流からは生還していない伊良部島佐良浜の漁師の木村実。追跡の過程で宮古島に近い伊良部島の漁業史を描いたり、自身のマグロ漁船体験を書いたり、グァムやフィリピンで木村と交錯した人物にインタビューしている。追跡している本人があまり痕跡を残さずに2度の遭難から生還していないのだから、周辺から攻めていくほかないのである。非常に圧巻で、読みごたえがあった。著者の他のルポもぜひ読んでみたくなった。

上記の本はすべて弊社図書館に寄贈したか、関心のありそうな人に進呈してしまった。
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4月に読んだ本から

・吉川 英治著「宮本武蔵」(青空文庫電子書籍版)

青空文庫版でタダで宮本武蔵全巻が読めるようになった。浪人時代、同じ下宿に住んでいた仲間が読んでいたのを思い出す。以来30年も自分では読まなかったのだが、中年になっての宮本武蔵もなかなか面白かった。出先でどうしても続きが読みたくなったのだが、ダウンロードできるWi-Fi環境がなく、コンビニの目の前で仮のパスワードをゲットしてそれが使える10分間で全巻ダウンロードして読んだという苦労もした。

確かに面白かったのだが、登場人物の偶然の出会いやすれ違いがかなり嘘臭い。いくら小説だとしても、もう少し設定を考えるべきである。さらにストーカー的に武蔵を思い続けるお通や追い続ける本位田のオババは異常性格者としか言い様がない。要するに、中年になってからでは青臭過ぎてちょっと・・まだコミック「バガボンド」(途中までしか読んでないけど)の方がいいのではないの?と思う。

その他、新書を数冊弊社図書館で借りて読んだ。
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3月に読んだ本から

・大澤 真幸著「近代日本のナショナリズム」(講談社選書メチエ 電子書籍版)
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今月は仕事関係の本以外はまず電子書籍本ばかり読んでいた。そのうちお金を払ってダウンロードしたのがこの本。その他、月前半には加藤文太郎「単独行」を、瀬戸内海の島へ行っている間、吉川英治の「宮本武蔵」をいずれも青空文庫版で読んでいた。

最近、読書量が減っているな・・
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2月に読んだ本から

・磯田 道史著「歴史の愉しみ方 - 忍者・合戦・幕末史に学ぶ」(中公新書)
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2月は何冊か新書を中心に読んだが、これが一番面白かった。著者はテレビ番組「BS歴史館」によく出てくる日本史学者で、「武士の家計簿」の著者でもある。番組を見ていてもそう思うが、著者は本当に面白そうに歴史を語るのがすばらしい。著作の中でも、興味に応じてさまざまなことを調べ上げ、一次史料に当たっている。エラそうな学者が好みそうもない忍者などについても真剣に調べ上げているところが庶民的で好感が持てるし、自宅にある古文書が東日本大地震の時にどうなったか、なども面白い。

東日本大震災を機に、著者は静岡県の大学に意図的に移ったという。東海大地震に備えて日本史史料からアプローチできないかというのが著者の考えのようだ。あの地震はさまざまな人々の人生を変えたのだなと思う。
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1月に読んだ本から

Keith Stubbs (著), Steve Dowle (寄稿), Andrew Kelly (寄稿), Camilla Stoddart (写真), Marilyn Poon (写真) Snow-Search Japan」(World Snowboard Guide Ltd)
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赤倉観光ホテルのラウンジに置いてあった本が面白そうだったのでfujisan,netで購入して読んでみた。ちゃんと読んだのは日本文化の紹介と行ったことのあるエリアのスキー場に限定されるが、ここまできちんと紹介されているとは驚いた。ゲレンデの詳細データだけでなく、バックカントリーやパークの様子、ベースの温泉街でのアフタースキーのことなども書き込まれている(いくつか、知らない店や明らかな誤植がみられるが)。特に妙高エリアの各スキー場や、野沢温泉、志賀高原、白馬の各スキー場記述は詳細であった。白馬などは外国人相手のスクールやガイドが充実しているらしく、本の中に広告がいくつもみられた。日本語のゲレンデガイドよりも詳しいのではないだろうか。
一方で、全く触れられていないスキー場も特に東北地方に多い。まだまだ東北エリアのスキー場まで外国人が進出してくるには時間がかかりそうだ。そういえば、高畑スキー場には外国人が皆無だったな・・

・御厨 貴・牧原 出編「聞き書・野中広務回顧録」(岩波書店)
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野中広務は筋の通った政治家だったと、この本を読んで今まで以上に思いを強くした。かつて、魚住昭著「野中広務 差別と権力」を読んだと記憶しているのだが、今回の回顧録は京都の町長から府知事、国会議員時代をふり返り、若手研究者のインタビューに答えている。ただ読んでいるだけで面白いのだが、過去の政治上の事件などの記憶が自分の頭の中で風化してしまってよく思い出せないのが残念。
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12月に読んだ本から

・冲方 丁 著「光圀伝」(角川書店・電子書籍版)
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10月に読んだ、「天地明察」に続いて電子書籍の光圀伝にチャレンジ。
リアル書籍なら750ページある大作である。電子書籍版でも3冊分。
毎日の通勤時間中にもっぱら読んでいたのだが、なかなか進まない。物語が比較的平板で、読み進めるときのワクワク感が一向に現れてこない。なんだか義務的に読み進めるようになってしまった。
ようやく月末に読了。


・早野 透 著「田中角栄」(中公新書)
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リアル書籍としては、新聞社の政治記者が書き上げた、かの田中角栄の評伝である。
こちらは面白くて比較的早く読み終わった。首相になるまでの角栄の半生が特に面白い。

角栄が首相だったときには私は小学生だったが、佐藤栄作のころから歴代の首相については記憶がある。
自分の父親が、角栄には肩入れしていたことを思い出す。学歴エリートとは正反対の角栄は、70年代までの地方庶民のシンボルでもあった。彼の日本列島改造論は、この本の中では挫折したと記されているが、その後40年近くたって、ことインフラ整備に関しては角栄がめざしたものにかなり近づいているのではないか?もちろん、それによって地方が活性化すると見越した角栄の見通しは甘かったといわざるを得ないが・・
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11月に読んだ本から

・五味 康祐 著「如月剣士」(上・下)・「柳生天狗党」(上・下)(電子書籍版・徳間文庫)

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電子書籍のレビューは初めて。とにかく、五味の本が読みたくてiPad miniを買い、電子書籍を購入したといっても過言ではない。絶版本がもっと読めるようなビジネスモデルが現れて欲しいものだ。

ともにhontoという、首都圏にある大型書店などがつくっているウェブストアで買い求める。1冊は600円弱。古本で集めるよりもおそらく安いだろうし、汚れなどもないのでありがたい。途中で読むのを止めても次にビューアーを立ち上げたときにそのページが表示されるし、しおりもつけられる。

で、内容だが、先月の「薄桜記」と同じく隻腕の剣士(高田左近と檜垣冴之介)が登場するところが興味深い。2作とも、である。相当五味康祐はこの隻腕剣士が好みだったに相違ない。
両作とも、「陰謀」がテーマであり、初めはまったくその陰謀の筋書きが見えてこない。謎なまま読み進めていくと徐々にその輪郭がおぼろげに見えてくる。登場人物も実在の人物、架空の人物が入り乱れ、場面の転換や登場人物の移動が多く、人物相関図を頭に描きながら読み進めていくうち、読者が心情を寄せる登場人物が定まっていく寸法になっている。エンタテインメントとしてはレベルが高く、「柳生武藝帳」が未完なのに対してちゃんとストーリーが完結している。

未完の「柳生武藝帳」よりもこちらの方が五味の最高傑作、という人もいるのはわかる気がする(私個人はいまだ「柳生武藝帳」の方が好き)。ただ、読み進めると時々頭をひねりたくなるような展開やディテールの疑問が湧く。「柳生天狗党」のラストはダークサイドのドン・柳生の冷酷非情を浮き彫りにするが、ちょっと話が飛びすぎな感じがするし、刀を置いて入らなければならない吉原で派手な刃傷沙汰が起こるのもどうかと思う。

「柳生武藝帳」のための助走と見ればいいかもしれない。

・光森 忠勝 著「カリスマサイクリスト 鳴嶋英雄の自転車の楽しみ方」(電子書籍版・朝日新聞出版)
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最近刊なので、電子書籍版でも1100円した。「なるしまフレンド」というのは東京でも有名なロード中心のサイクルショップで、そこのオーナーが鳴嶋英雄である。ショップが先なのかサイクリングクラブが先なのか、ショップがクラブを支える手段と読めるが、両輪として成り立っているようだ。毎年八ケ岳までクラブ員を引き連れてツーリングが催されるらしい。なかなかタフなツーリングである。

この月は、電子書籍が読めるのが嬉しくて、無料の青空文庫(著作権切れの古典をボランティア精神でアップロードしている)にアクセスし、永井荷風の短編なども読んでみた。有名な「濹東綺譚」も読んでみたが、なるほど「奇譚」であった。
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10月に読んだ本から

・五味 康祐 著「薄桜記」(新潮文庫)
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五味の本はなかなか文庫の点数が増えないのだが、NHKBSでドラマ放送が始まるタイミングで出版された。主人公は丹下典膳。まあ丹下左膳のパクリだ。失った腕は丹下左膳とは逆。何だか安易な設定のように思えるが、さすが五味康祐、読ませる読ませる。BSのドラマのあらすじを調べたら、全く原作を踏襲していない。脚本家が勝手に変えている。だからドラマは見ない。

・中国ムスリム研究会 編「中国のムスリムを知るための60章」(明石書店)
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・冲方 丁 著「天地明察」(角川文庫)
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いやー、さわやかな小説だった。こちらも映画化されたが、映画は観ていない。多分観るとガッカリするだろう。渋川春海が主人公というところがすばらしい。関孝和と渋川春海は同い年という設定になっているが、実際は3つほど歳が違う。若い作家の作品はストレートでいい。

・皆川 典久 著「東京スリバチ地形散歩」(洋泉社)
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・芳賀 ひらく 著「江戸の崖 東京の崖」(講談社)
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東京ローカルの地形モノ。「スリバチ」も「崖」も、デジタル処理をして強調した地形図を巧みに用いて東京の凸凹地形を描いている。まあ、半日あれば楽しめる本。実踏してみればなお面白かろう。

その後、どうしても五味康祐の絶版本が読みたくなり、タイムリーに発売されたiPad miniを予約して初日にゲットした。ただいま、「如月剣士」に夢中。

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9月に読んだ本から

・佐野 眞一 著「新 忘れられた日本人」(ちくま文庫)
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平成の世には見られない、過剰なエネルギーを発散する多くの人物を集め短くまとめたもの。今まで数多く佐野眞一のノンフィクションは読んできたが、その中に登場するバイプレイヤーたちの群像である。電車の中で読むには一つ一つが短くて読みやすい。

・羽根田 治、飯田 肇、金田 正樹、山本 正嘉 著「トムラウシ山遭難はなぜ起きたのか」(ヤマケイ文庫)
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2009年の夏に起こったトムラウシでのツアー登山者の遭難事件を分析している。特に、低体温症に関する科学的な記述が非常に参考になる。どんな山でも、ちょっとした気象の変化で人間は低体温症になりうる。

・宇都宮 徹壱 著「松本山雅劇場 松田直樹がいたシーズン」(カンゼン)
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マイナーな出版社から出ているが、東京の某書店では平積みである。宇都宮徹壱のサッカーコラムはウェブ上でよく読んでいて、この本の冒頭部分もどこかで読んだ気がするのだが、2011年シーズンの松本山雅がJFLからJ2に昇格するまでの歩みを、対戦相手も含めて克明に描いている。その中で、最も重かった事件は元日本代表松田直樹の突然死であった。松田の山雅加入、その死、メモリアルゲームまでをドキュメントの通奏低音にしつつ描き出している。
松本に縁のある私は、今期J2に昇格した後の松本山雅を密かに応援している俄サポーターなのだが、松本という街に縁がなくても、松本山雅に関心がなくても、それなりに楽しめるのではないだろうか?


・十返舎 一九 著「東海道中膝栗毛(上・下)」(岩波文庫)
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うってかわって、古文に挑戦。しかし恐るるに足らず、ほとんど口語であり、記述のクセに慣れれば現代文を読むのと同じように読める。駄洒落、ドタバタ劇、洒落の聞いた狂歌のオンパレードで飽きない。
弥次郎兵衛と喜多八は衆道で結びついた、というのは初めて知った。そのくせ、旅先で2人が時間差で夜這い、勘違いして弥次郎兵衛が喜多八に濃厚なキスをしまくると、罵詈雑言を浴びせるのは面白い。その上、夜這いをかけた相手が娘ではなく老婆だったというオチ。
面白くて下巻まで読み進めたが、京・大坂の見学あたりから、読み終えるのが惜しくて通勤電車の中でだけもっぱら読むようになった。
読みながら、尾籠な話が多いけれど、中学生の古文教育はここから始めた方がよほど面白くできるのではないかと門外漢の勝手に思った。
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8月に読んだ本から

・村田 晃嗣 著「レーガン いかにして「アメリカの偶像」となったか」(中公新書)
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1980年代について著作(「プレイバック1980年代」)のある同志社大学の村田晃嗣による、ロナルド・レーガンの評伝、ということになろう。
レーガン大統領は私のイメージでは、冷戦最末期に「新冷戦」を拡大した大統領というイメージが強く、減税のかわりに軍拡を行って、「SDI計画=スターウォーズ計画」のようなちょっと荒唐無稽の戦略を展開し、レーガノミックスによって財政と貿易の「双子の赤字」を生み出してしまった大統領、という負の側面が強い。さらにややこしいイラン・コントラ事件が発覚した大統領でもあった。
この本を読んでみると、レーガンが単なる俳優上がりのタレント政治家ではなく、演説やユーモアに富んだ(中には笑えないジョークもあるが)明るいアメリカ人の一面も持ちながら、なかなかしたたかな政治家であったことがわかる。
最近、レーガン時代が再評価されている。アメリカでは最も偉大な大統領の一人なんだという。日本にいて80年代を知っていると、全くそんな評価に与しようとも思わないのだが、不思議なものである。

・川上 泰徳 著「イスラムを生きる人びと」(岩波書店)
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朝日新聞の中東特派員が描いたイスラーム世界の現実。理論だけでなく、人々とイスラームの接点をしっかりと分析していると思う。カイロにはアズハル学院という、1000年以上の歴史を持つ高等教育機関があるが、決して象牙の塔ではなく、カイロの庶民がよろず悩み相談室として通う場所を有している。そこではスンナ派の4法学が平等に扱われていて、相談に来る民衆は好きなイスラーム法学派の学者のところへ行けばよいのだという。イスラームには聖職者はなく、庶民の悩みやトラブルを導く法学者・知識人が存在するだけである。
今月、シリアで亡くなられた山本美香さんのご冥福を祈ります。本当にシリアの情勢には心が痛む。

・川島 浩平 著「人種とスポーツ 黒人は本当に「速く」「強い」のか」(中公新書)
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ロンドンオリンピックは登山の最中にもラジオで聴いていた。メダル争いなんて前時代的だと思いつつも、選手たちが懸命に戦い、メダルを賭けて勝利をもぎ取るところは見ていて興奮する。
で、オリンピックなどのスポーツイベントになると登場するのが、「人種」による身体能力の差についての論議。「人種」は学問上全く意味のない概念だということはわかっていつつも、陸上競技などでの圧倒的な速さを目の当たりにしてしまうと、説得されてしまう人も多いのではないだろうか。血液型診断に少し似ている気がしないでもない。だが、例えばアフリカ系黒人選手が陸上やバスケットボールで多数を占めるのは、彼らが幼少期からそのスポーツに慣れ親しみ、子供の頃からその種目で高く評価されてきたからで、同じアフリカ系黒人でも短距離に強い国や、長距離に強い国、バスケットボールが圧倒的な国などがあって、一概に「黒人の身体能力は対抗できないほど高い」などと断言はできない。


・吉見 俊哉 著「夢の原子力 Atoms for Dream」(ちくま新書)
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読みでのある本だったが、論点が多岐にわたり過ぎていて読後感をまとめられない。
エディソンから説き起こして電気の供給体制が小規模地産地消型から大規模な発電所が遠隔地から高圧電線で都市に一元供給するタイプに変貌していったことを論じたかと思えば、日本の原発誘致の歴史を綿密に説いてみたり、その後はゴジラとアトムの意味付けになってしまう。ところどころにハッとさせられる部分もあるのだが、総花的過ぎて何とも言えない。
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7月に読んだ本から

・片山 杜秀 著「未完のファシズム」(新潮選書)
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新聞の書評を読んで魅かれ、図書館にお願いして入れてもらった。書評にたがわず、流れるように内容が理解できる本だった。

タイトルだけではどんな内容なのか把握しにくいが、日露戦争からアジア・太平洋戦争敗戦までの軍隊に対するこれまでの固定観念を、有名・無名の軍人たちの文章にあらわれた思想や同時代の文学作品などの史料をふんだんに用いて解きほぐしていく。

日露戦争でのおびただしい犠牲と、国家を挙げての総力戦・消耗戦は、きちんと軍内部で反省されていた。第一次世界大戦の青島攻略ではその反省に立って(特に旅順攻略戦)、物量作戦を行った。しかし戦後、米英ソとの経済力の差は明白になっていく。「持てない国」である日本は、「持てる国」との勝てない戦争を敢えて行うわけには行かないのが軍幹部のホンネになっていったのだが、タテマエとしては、米英と戦争をやった時に絶対勝てないと公表する訳には行かない。軍の存続意義が薄れる。そこで「精神力」なるものによって条件付きでなら勝てることがある、と逃げた。あるいは膨大な時間をかけて満州を利用して「持てる国」に変貌し、しかる後にアメリカとの最終戦争を行うべしという壮大な論理を構築した石原莞爾のような軍人もいた。

だが、「条件付き」の限定が軍隊という組織の中でいつの間にか外れていく。日本軍は常にどんな相手とでも包囲殲滅戦ができるかのような雰囲気になっていくし、満州を傀儡国家とし、中国まで軍を進め、石原莞爾自身は思ってもみなかった米英との同時戦争に突入していく。そしてそのようなズルズルとした物事の進行は、明治憲法下での日本という国家がもつ構造的特徴によるものだった。実は明治憲法下の権力は分散構造になっていて、天皇であっても親裁は困難であった。

私なりにまとめるとこういった感じだが、歴史専門家が描く歴史書とは違って、文章が平易で、掲載される史料も頭に入って来やすい。本来、専門的なことを啓蒙するための本であれば、こういった文体と内容であって欲しい。この本で描かれる過去の日本のありかたは、現在の日本とも通底していると思いませんか?

・佐藤 優 著「紳士協定 私のイギリス物語」(新潮社)
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久しぶりに佐藤優の本を読んだ。いつも感心するのは、その記憶力である。「私のマルクス」と同じく青春時代の自分を中心とした告白本ともいえるが、四半世紀も前の出来事が克明に描き出されるのが不思議だ。私などは断片的な映像くらいしか思い出せないので、当時の会話内容とか感情を思い起こすことなど不可能に近い。ノンフィクションのような体裁でありながら実はフィクションを交えているのではないかと想像したりするのだが、仮に少し入っていたにしても相当部分は記憶の中にしまい込まれていたものの再現であろう。

「私のマルクス」が学生時代を扱っていたのに対して、この本では外務省での研修期間にイギリスで受けていた英語とロシア語の特訓がベースにある。ホームステイ先のイギリス人中流家庭での少年グレンとの交流は、独特の香りがする。

その後モスクワで勤務するようになった筆者とイギリス時代の人間関係は次第に変化していき、その中で後に筆者が巻き込まれる事件への予兆が見えてくる。

・茶谷 誠一 著「宮中からみる日本近代史」(ちくま新書)
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内大臣、侍従長、宮内大臣という戦前のポストがどのような意味を持っていたのか、日本史の教科書レベルではわからない。シロウトには、内大臣と宮内大臣の違いがまず不明である。
教科書や概説書では「オモテ」の制度としての内閣や議会の動きから政治の流れを解説していくが、天皇の補佐を執り行い、内閣などとは独立した部局としてこうした組織やポストが存在し、それが「ウラ」で歴史のさまざまな局面に関与していたことは大きな事実である。

特に内大臣、という内務大臣と一字違いながら大きく異なるポストは、もともと三条実美に属人的に与えられたポストであった。その後「元老」たちの意向によって内大臣は引き継がれていくが、「元老」の権力低下により、内大臣の色合いは独特なものに変貌していく。「元老」という訳のわからない風習が続いたこともおかしなことだが、それが明治・大正期の権力構造の要になっていたことがより不思議に感じられる。

ともかく、そういう隠然とした権力を持つ部門がどのように近代史に関わってきたか、というのがこの本のテーマである。読後、わかったような気にもなるが、ますます不思議さが濃くなっていくというのが私の実感。
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6月に読んだ本から

・内澤 旬子 著「飼い喰い」(岩波書店)
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月末に読んだ本からピックアップするのは面倒だし、読んだ本自体を忘れてしまうので、月初めからややインパクトのあった本については書き留めておくことにした。

「世界屠畜紀行」の内澤旬子の最新刊。なんと岩波から出版された。
今度はタイトルのように、著者が千葉東部で借りた一軒家の軒先で子豚から飼育し、つぶして食べるまでが克明に描かれる。
この取材精神は一体どこから湧いてくるのか。以前シェルパ斉藤とトイレなどの取材を行い、脇役のイメージがあったのだが、もう完全にシェルパ斉藤を超えてしまった。しかも、著者は乳癌と闘いながらこのバイタリティーを振り絞っている。感服つかまつった。
しかし、内容的には「世界屠畜紀行」を超えるところまで入っていない感じがする。
同じく内澤が過去に書いたものとして、先日これも読んだ(というかイラスト集なので眺めた (講談社文庫)。最近書店で平積みになっている、「おじさん図鑑」(なかむら るみ著 小学館)とあわせて読むが吉。
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・坂野 潤治 著「日本近代史」(ちくま新書)
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学生時代に彼の授業を受けたことがある。その縁もあって購入。
新書としては圧倒的な厚さ。しかも専門分野を越えて幕末から太平洋戦争直前までを書ききっている。非常に論理的で、根拠なく世間に流布している過去の政治家たちへの評価を論理的に覆している。特に原敬に対する評価は新鮮だった。
日本史のことをかなり知っていないと読めないと思われる。あやふやな知識しかない私が電車の中で睡魔と戦いながら読んでいると、活字を追っているだけになり、頻繁に登場する史料の内容を吟味しないままに読む進めるので、かなりの部分は読解できていない。
もう一度じっくり読まないとダメだろう。

・渡辺 一史 著「北の無人駅から」(北海道新聞社)
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800ページ近くもある分厚い本だが、面白くて一気に読み終えてしまった。著者は北海道在住のルポライター。北海道に多く存在する無人駅がもつ背景をかなり深くまで抉っている。「無人駅探訪」の類いの表層的な本ではない。日本社会の裏側まで描き出した渾身の作である。
冒頭の室蘭本線・小幌駅は列車で通過したことや、すぐ山側の高速道路を走ったことがあるが、こんなトンネルの間にあっていまは誰も乗降りしない駅が存在するとは思っても見なかった。しかし、過去の小幌駅には奥深いエピソードがあった。著者は自分の足で無人駅を探訪するところから、周辺住民(これを探すのが一苦労である)を取材対象として肉薄していく。何年もかけて、閉鎖的な村落社会に食い込んでいく粘り強さに脱帽する。
その他、釧網本線・茅沼駅の章では釧路湿原と自然環境問題が、札沼線・新十津川駅では北海道の稲作が、釧網本線・北浜駅では流氷観光と「カニ族」が、留萠本線・増毛駅ではニシン漁と映画ロケが、石北本線・奥白滝信号場では過疎と平成の大合併が論じられている。各章の末尾に本文での用語説明や補足が4段組で述べられており、これも圧巻であるが、いかんせん字が小さ過ぎて暗い電車の中で活字を追うのは辛い。
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5月に読んだ本から

・上里 隆史 著「海の王国 琉球」(洋泉社 歴史新書)
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古琉球王国について述べた本だが、15世紀に明への朝貢で栄えた時代のことが詳しく述べられていて非常にわかりやすかった。琉球が統一される以前から琉球の朝貢は行われていたが、他の地域とは違ってそれぞれの国が独自に朝貢できた点がまず優遇されていたポイントであり、さらに統一が果たされてからも琉球の朝貢船は明から支給された船で、明にとっても琉球からの朝貢は欠くことのできないものだった。

周囲をリーフで覆われた琉球には大型船が停泊できる港がわずか2港しかなく、その一つが河口に港と外国人が居留できる小島を持っていた那覇であったことは興味深い。
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4月に読んだ本から

・高橋 雄造 著「ラジオの歴史  工作の〈文化〉と電子工業のあゆみ」(法政大学出版局)
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ラジオ好きとしては読んでみたかった。だが、網羅的にラジオの歴史を扱うものではなく、ラジオ工作に関わったアマチュアを中心に、今となってはあまり意識されない社会の裏面史を描いている。現在と違い、ラジオや初期のテレビはアマチュアが製作できる電子機器で、近所でラジオが直せる人がいるとそこで修理を依頼するというのが戦後までの風潮だった。
電子工作技術を支えたのが、雑誌である。おそらく、今でも発刊されているのが、「MJ無線と実験」であろう。過去には数多くの雑誌が存在した。子供のころには書店でよく見かけたが、いつの間にかそれらは廃刊に至っている。

教科書並にページごとに図版が複数載せられていて、それらの資料をかき集めるだけでも相当な努力が必要だったと思われる。労作である。

読み進めるのにはかなり時間を要してしまった。ほとんど4月はこの本に費やされた。
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3月に読んだ本から

・山岡淳一郎 著「原発と権力 戦後から辿る支配者の系譜」(ちくま新書)
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歴史的に原発政策を描いた本としては、かなり面白い本だと思う。
原子力発電が核の平和利用で終始一貫しているはずはないのである。明白に核武装を予期した原発開発が行われ、各時代の権力者は原発を利用して権力の維持・拡大に努めてきた。総理大臣になれなかった正力松太郎をはじめ、岸信介・佐藤栄作兄弟、田中角栄、中曽根康弘らが、原発導入や米軍の核持ち込み、ウラン燃料の輸入先確保、核燃料サイクルをめぐってさまざまな駆け引きを行っていく。本の帯にあるように、裏面史を描いてもいて、ちょっと恐ろしくなることもあった。

・隆慶一郎 著「吉原御免状」(新潮文庫)
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八丈島で再読。第一級のエンタテインメント剣豪小説だが、遊廓吉原の成り立ちについてかなり精緻に調べ上げてある故に面白いのだと思う。後半は隆慶一郎の一連の小説ネタをそんなにバラしていいのと思うくらい開陳していて、「影武者徳川家康」をはじめ、ばらしたネタからスピンオフした小説まで読みたくなる。
私はあまり小説を再読するという習慣がない方だと思うのだが、面白いものは一定期間を置いて再読したくなる。日本の時代小説なら他には「柳生武芸帳」(五味康祐)。外国小説なら「カラマーゾフの兄弟」。映画なら、「男はつらいよ」。

余談
先日、山田洋次の「家族」(1970年)を録画して見た。70年の3月から4月にかけての短い間に長崎の伊王島から北海道中標津に移住する家族を描いたロードムービーだが、前年から始まった「男はつらいよ」のキャストがチョイ役で総動員されていた。主役の民子に倍賞千恵子、義父に笠智衆、チョイ役には前田吟、上野の安宿の主人でテレビ版「男はつらいよ」を見て爆笑する初代おいちゃんの森川信、ごみ捨て場にやってきて一言つぶやくだけの、先日他界したおばちゃんこと三崎千恵子、そして青函連絡船で絡む渥美清。
今はリゾートの島として生まれ変わった伊王島の40年前の映像や、鉄道、万博、東京をはじめ各地の様子も歴史的資料として観賞できる。おそらく、主役たちは実際に日本を同じ季節に縦断しつつ、列車の中でロケ撮影をやっていったのだろう。だから渥美清(寅さん)に向こうから愛想笑いをされると、思わず移動ロケに疲れた倍賞千恵子(さくら)は素で笑ってしまうのだと思う。その手法もすごい。

「山田洋次監督が選ぶ日本の映画100」(喜劇編)と、クランクインした「東京家族」に期待したい。
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2月に読んだ本から

・安冨歩 著「原発危機と「東大話法」 傍観者の論理・欺瞞の言語」(明石書店)
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新聞の複数ある読書欄のうちの一つから目に留まり、買ってしまった。
文体は平易で非常に読みやすかったが、ご自身のブログ記事の整理とまとめで成り立っているらしい。

前半の3章分は「東大話法」の分析とそれを用いたブログ上の意見に対する筆者の批判が書かれる。それ自体に対して特に強い賛成や反対の意見を私は持ち合わせているわけではないが、ちょっとくどい、という印象を持った。やり玉に挙げられている意見の全文も読んでみないことには何とも判定できない。

「東大話法」は現役東大教授である筆者の研究対象で、20項目もその特徴が挙げられているけれど、東大という狭い世界の中だけに留まるものではなく、責任回避社会である現代日本のどこでも見られる、もう一般的かつ陳腐になってしまった論法の一つであろう。特段カギカッコをつけて強調するものでもないとは思うが、東大の権威主義的な研究者の社会から官僚や政治家、そしてメディアを通じて一般にも広がったものであろうから、本を売るためには刺激的な惹句かも知れない。確かに、項目20番目の『「もし○○○であるとしたら、お詫びします」と言って、謝罪したフリで切り抜ける』というのはずっと自分自身も気になっている言葉遣いで、全く人を小馬鹿にするような物言いだと思っていた。

ちょっと不満足な本かな、と思いつつ読み進めていったら、第4章『「役」と「立場」の日本社会』は違った。この本の最も優れた部分はこの章であると思った。自分の「立場」とそれに付随する「役」を守ることが一般的な日本人にとって非常に重要となっており、ひとたび何かのアクシデントや失敗で「役」を失ったり面目を潰したりすれば、その人の「立場」がなくなり、社会の中で立ち位置を失う、という主張は、腑に落ちるものだった。かくもストレスフルな社会にこの日本はなってしまったのか?

それにしても、筆者の専門とはいったい何なのだろう。経済学に始まって満洲国の研究や理科系の学問にも興味を持ち、共著ではあるが専門外の対象にも首を突っ込み、はたまた原発事故の後にこのような本を東大の内部関係者でありながら出版する、というのは「専門バカ」よりもはるかに面白い人である。調べてみたら、同い年であった。
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1月に読んだ本から

・酒井啓子 著「<中東>の考え方」(講談社現代新書)
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いま、一番手軽に中東全体の状況を知るにはうってつけの本ではないだろうか。
著者がかつて中東へ赴く時にアエロフロート便に乗って「強制収容所」のようなホテルに泊まったという感想は、私が86年にソ連経由でトルコへ行った時と全く同じである。その一文を読んだだけで嬉しくなった。
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12月に読んだ本から

・川本三郎 著「小説を、映画を、鉄道が走る」(集英社)
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この本の中に出てくる小説や映画や鉄道風景の大半は読んだことも見たこともないものだが、なぜか惹きつけられた。年末年始に家で見ていた「男はつらいよ」シリーズでも、よく列車が出てくる。特に初期の60年代末から70年代前半の蒸気機関車が登場するシーンがいい。

・増田俊也 著「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」(新潮社)
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不世出の柔道家、木村政彦の名前くらいは知っていた。昨年から本屋に行くたびに、若かりしころの木村政彦の鍛え上げられたカバー写真は気になっていた。年末に購入してほぼ1週間で読み終わるくらい面白かった。今の講道館柔道が柔道を一本化したのは戦後のことで、戦前は旧制高校中心の別体系の柔道(寝技中心)や、武徳会という半官半民の柔道組織が存在したこと、講道館柔道は立ち技中心で関節技や寝技を軽視したために、戦後は一般スポーツ化していったこと、木村政彦は旧制高校や武徳会で主流だった技に長け、圧倒的な力を持っていたことなどが発見だった。戦後の木村政彦は数奇な運命に翻弄され、力道山などのプロレス界や大山倍達など空手界、ブラジルのグレイシー柔術などと交流していく。
二段組、700ページもある分厚い本だが、かなり読ませる。ところどころ誇張があったり、誤植を2ヶ所ほど発見してしまったりしたが、そんなことは全く問題ではない。
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11月に読んだ本から

・開沼博 著「『フクシマ』論 原子力ムラはなぜ生まれたのか」(青土社)
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東大院生の学術論文。新聞などで話題にされている。
論文なので、全体の3分の1くらいは研究の方法論などに当てられていて、取っ付きにくいが、丁寧に読んでいると理解できるし、本論や考察にも関わってくる。
この本がユニークのは、「原子力ムラ」という言葉が、原発を受け入れた福島県の町村にも用いられていることだ。メディアで取り上げられる「原子力ムラ」とは原発推進の電力会社、御用学者などに用いるのが普通だが、原発が存在する町村も構造的に原発を受け入れざるを得なくなった歴史と雇用事情があることから筆者が用いた用語である。最初はとても違和感がある。読み進めていくとそれなりにこの用語を原発立地町村に用いることにも少し納得する。
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10月に読んだ本から

・佐藤栄佐久 著「知事抹殺 つくられた福島県汚職事件」(平凡社)

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期待にたがわず面白かった。佐藤優の場合もそうだが、検察っていったい何なんだろう。
収賄額ゼロの汚職事件なんて、でっち上げも甚だしいところだ。
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9月に読んだ本の中から

・山本義隆 著「福島の原発事故をめぐって―― いくつか学び考えたこと」(みすず書房)
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久しぶりに読んだ本を挙げるが、印象に残った本だけを取り上げることにする。
著者山本義隆はかつての東大全共闘議長。学者になっていればノーベル賞が期待されたらしいが、大学闘争で学者の道を閉ざされて、予備校講師となった。私が浪人時代には駿台予備校のスターのひとりだった。私は文系だったので彼の講義は受けなかったが・・。それにしてもあの頃の予備校講師はみんな学生運動くずれの人たちで、カリスマ性があったなぁ。

で、内容は非常にわかりやすく、万人がぜひ読むべき本だ。この本の中にある、元福島県知事佐藤栄佐久氏について言及された箇所を読んで、がぜん佐藤栄佐久氏にも興味が湧き、「福島原発の真実」(平凡社新書)も読んだ。「知事抹殺」(平凡社)も近々読むつもり。
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2月に読んだ本

・柿崎 一郎 著「東南アジアを学ぼう」(ちくまプリマー新書)

中国に近い東南アジア諸国を東西・南北に紙上旅行しながら実情を探る本。中高生に読ませるにはもったいないくらい内容が充実していた。やや中高生には難しいか?

・河田 惠昭 著「津波災害」(岩波新書)

残念ながらほとんど斜め読み。

・高瀬 正仁 著「高木貞治 近代日本数学の父」(岩波新書)

これも残念ながら斜め読み。

・久保 亨 著「シリーズ中国近現代史 社会主義への挑戦 1945〜1971」(岩波新書)

真面目に読んだが、このシリーズは文章が硬い。

・菊地 章太 著「義和団事件風雲録 ペリオの見た北京」(大修館書店)

義和団事件に北京で巻き込まれたフランス人のメモをもとにした書物だが、著者が歴史学者ではないためにところどころ首をひねりたくなる表現がある。ざっくばらんな本ということならばそれはそれでいいのだが。

・青山 潤 著「アフリカにょろり旅」(講談社文庫)

新聞で著者へのインタビューコラムがあって、面白そうだったので買って読んでみた。著者はウナギ学者であり、ウナギの採集のため、マラウィ・モザンビーク・ジンバブウェを放浪する。学者なのだがその旅は壮絶。かなり脚色も入っているだろうが、最後まで面白く読ませてくれた。

・野村 哲也 著「パタゴニアを行く 世界でもっとも美しい大地」(中公新書)

写真がとても美しい。パタゴニア、行ってみたい・・

・内田 樹 著「街場のメディア論」(光文社新書)

ここのところ読んできた内田樹の本の中ではいちばん論理と文章が整っていた。
しかし述べていることに特に新味はない。
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1月に読んだ本


・田上 太秀 監修 「図解 ブッダの教え」(西東社)

「図解」とあるが、漫画によって仏教教義をまとめた本。適当なのかと思いきや、かなりしっかりと書かれている。

・九重 貢 著 「綱の力」(中公新書)

初場所初日に買ったサイン本なのだが、八百長相撲に弟子がからんでいたとなるとちょっとコメントしづらい。

・梅原 淳 著 「毎日乗っている地下鉄の謎」(平凡社新書)

オタク本で通常の読者では理解が追いつかない。

・川北 稔 著 「イギリス近代史講義」(講談社現代新書)

非常にわかりやすい社会史の本。筆者は世界システム論を紹介した学者で、一度学生時代に集中講義を受けたことがある。その時はずいぶん若々しい先生だと思ったが、もう70歳になろうとしているとは。

・渡辺 裕 著 「歌う国民 唱歌、校歌、うたごえ」(中公新書)

筆者は美学専門の学者だが、この本はわかりやすく面白い。文部省唱歌が国民統合を狙って作られたことも面白いが、その後の校歌や県歌がなお面白い。長野県の県歌「信濃の国」についての言及は全て知っていたことばかりだが、こういう切り口で取り上げられるとは・・

・御厨 貴 著 「権力の館を歩く」(毎日新聞社)

新聞の確か夕刊に連載されていたので、ほとんどは読んでいるはずだが、あらためて読んでみた。文体がキザ。

・山賀 進 著 「一冊で読む 地球の歴史としくみ」(ベレ出版)

職場の同僚が書いた本。敬意を払いつつ読んだが、文系の私にはわかる所とわかりにくい所があって、わからない所は斜め読み。ところどころ、へぇと思わせるところがあったり、おそらく時々若者たちを前に喋っているだろうウィット(あるいは皮肉)が含まれていて、らしいなぁと思う。
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12月に読んだ本

年末は忙しかったうえ、緻密な内容の本を読んだので冊数は3冊だけ。

・瀧井 一博 著 「伊藤博文 知の政治家」(中公新書)

サントリー文芸賞を受賞した作品なので前から気になっていた本だが自分で買ってみた。内容はかなり緻密で、内容の薄い新書とは違って読み進めるのにかなり時間がかかった。
伊藤博文のイメージというのは一面的ではなく、一言では言い表しにくい。この本では「漸進主義」というキーワードで伊藤が辿った政治家としての道を追っていく。特に初代内閣総理大臣となった伊藤は自由民権運動から発する政党を当初認めようとしなかったのに対し、日本史の教科書でも書かれるように立憲政友会という政党を組織することになるのはなぜなのか、またなぜ「政友会」なのかが読み進めるうちにわかってくる。晩年の朝鮮支配に対してどのように臨んでいたのかも描かれている。ドラマ「坂の上の雲」では加藤剛が演じていて、ドラマの中では日露開戦を最後まで拒絶する平和志向の政治家、という一面性しか描かれないが、本当の伊藤はもっと深く、多面的である。

・セルジュ・ミッシェル ミッシェル・ブーレ 著、中平 信也 訳 「アフリカを食い荒らす中国」(河出書房新社)


中国のアフリカへの経済進出については知られてはいるが、その実態はなかなかリアルに伝わらない。でも南部地域の分裂が話題になっているスーダンのような国にも、中国人は数万人規模で進出している。在アフリカ華僑の集団は想像以上に大きく、アフリカ経済に食い込んでいる。その功罪について書かれた本だが、いろいろと考えさせられた。

・佐藤 優 著 「甦る怪物(リヴィアタン) 私のマルクス・ロシア編」(文藝春秋)

11月に文庫化された「私のマルクス」の続編を単行本で買って読んでみた。これもまた面白い。もちろん、佐藤が外交官となり、ロシアで活動していた時代(ペレストロイカ期〜ロシア連邦初期)を扱った内容である。
せっかく単行本で買ったので、弊社図書館に寄贈しようかと思っていたら、図書館には「私のマルクス」は入っていないのになぜかこの本だけは入っていてガッカリ。
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11月に読んだ本

11月もなかなか他の仕事で忙しく、通勤車中での読書量は少なめ。佐藤優の「私のマルクス」はきちんと読み込んでいくと結構時間がかかるのだ。読み切って、今年出た続編「よみがえる怪物(リヴィアタン)」もハードカバーで買ってしまった。年末年始に読むつもり。関川夏央の本も面白かった。相変わらず人を引きつける文体である。また、巻末の澤地久枝の解説もヨイショ解説ではなくて非常によかった。

・内田 樹 著 「武道的思考」(筑摩選書)

最近の内田樹の出す本はこういう類い(書き散らしたブログ文)の本が多く、わざわざ選書にするべき内容なのかと疑りつつも買ってしまった。見事に術中にハマった私だが、読んでみると深い部分はそこここにあるものの、やはり駄文の羅列がほとんどを占め、残念。

・竹内 正浩 著 「鉄道と日本軍」(ちくま新書)

内田の本を弊社図書館に寄贈した帰りに借りてきた。面白い部分もあったが、ちょっと鉄オタ的で入り込めない。


・佐藤 優 著 「私のマルクス」(文春文庫)

これは面白かった。著者は私より3つほど年齢が上だが、学生運動とマルクス主義に彩られた高校・大学時代を経験しているのがちょっと面白い。私の世代は「三無主義」などと言われたり「新人類」などと言われてきたので、団塊の世代特有の学生運動やマルクスボーイはかなりの少数派のはずだが・・この3年間に世代の断絶があるのか、それとも佐藤が歩んだ学歴の環境が特殊なのか・・・いずれにしても内容的にはキリスト教神学の一端がところどころに出てきて、かなり高度な部分があり、単なる半生を描いた自伝ではない。

・関川 夏央 著 「家族の昭和」(新潮文庫)

関川お得意の昭和描写。向田邦子。吉野源三郎、幸田文など、私が読んだことのない作家の作品と家族関係を中心に描写が進む。一人を描いたらその次、という構成ではなく、ところどころ入れ子構造になっているのが面白かった。特に幸田文の「流れる」はちょっと読んでみたいと思った。後半はテレビドラマ(80年代のトレンディードラマ)や映画を中心に家族が論じられるが、これも私にとっては面白かった。巻末解説者の澤地久枝はピンと来なかったようだが・・
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10月に読んだ本

あまり冊数は読んでいないが、それなりの本は読んだつもり。今月は雑誌「現代思想」の11月号に大相撲が特集されていたりして、他にもいろいろと読んではいるのだが、一応以下のものだけ挙げておく。「波乗り入門」は内容が軽いので1時間ほどで読めてしまうし、仕事絡みで読む必要があった本は、義務感に駆られて読んでしまったせいか、いずれもあまり印象に残らず、加藤典洋の本が唯一楽しみながら読めた本だった。以下で各書籍に対する説明やコメントは省く。

・羽場 久美子 著 「拡大ヨーロッパの挑戦―アメリカに並ぶ多元的パワーとなるか」(中公新書)


・中塚 明、醍醐 聰、安川 寿之輔 著「NHKドラマ「坂の上の雲」の歴史認識を問う―日清戦争の虚構と真実」(高文研)


・加藤 典洋 著「さようなら、ゴジラたち――戦後から遠く離れて」(岩波書店)


・出川 三千男 著「波乗り入門」(ちくまプリマー新書)


現在読書進行形の本として、
・石川 禎浩 著「革命とナショナリズム――1925-1945」(岩波新書・シリーズ 中国近現代史 3)


・塩川 伸明 著「冷戦終焉20年―何が、どのようにして終わったのか」(勁草書房)
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9月に読んだ本

・保坂 正康 著「昭和陸軍の研究 上・下」(朝日文庫)

上下巻で1200ページもある。「昭和」陸軍なので陸軍の歴史のすべてを扱うわけではないが、一章一章が非常に重い。張作霖爆殺事件の謀略から始まって、敗戦直後の状況まできっちり述べられていて、これを読むだけでアジア・太平洋戦争の全貌がわかる作りになっている。

・渡辺 京二 著「逝きし世の面影」(平凡社ライブラリー)


先月の「黒船前夜」が面白かったので書店で買い求めてしまった。これも600ページもある大著で、文庫版にも関わらず2,000円もしてしまう。非常に読みでがある本だった。夏はやはり大著にチャレンジしたくなるのである。
幕末〜明治初期に来日した外国人の目から見た日本文化が新鮮で好ましいものに映ったことを描きつつ、今日においては廃れてしまった、かつての日本の美しい文化と対比する構造になっている。外国人が当時の日本を見つめる姿はオリエンタリズムとして批判されていることは著者は十分わかっている。しかしそれを越えるものがかつての文化にはあったのである。もはや、ここに描かれた習慣はほとんどこんにち見いだすことができない。
さすが名著と言われるだけのことはある。その後、新聞のコラムで取り上げられていたのを読み、また先日は夕刊の特集で著者へのインタヴューが掲載されていた。80歳を超えて熊本にて執筆活動をされる著者の気迫はすごい。

・塩野 七生 著「ローマ人の物語 キリストの勝利 上・中・下」(新潮文庫)



毎年9月に分冊で出される「ローマ人の物語」もこの「キリストの勝利」が出されたことであと単行本の1冊分を残すのみとなった。文庫版ではついに40巻目である。おそらく来年の同じころ、43巻前後で完結だろう。よこもここまで読み進めてきたと思うが、ローマ末期の記述になって塩野の情熱も薄らいできたような気がする。以前のような熱意が文面から伝わってこない。それに、最近の塩野の文章は宗教を一面的に捉えてしまうような誤解を生むところがあり、現在執筆中の十字軍についてはあまり読む気がしない。
そんなこともあり、こちらもちょっと義務的に読んでいるようなところが出てきた。
扱っているのはコンスタンティヌスの死後からテオドシウスの登位まで。「背教者」とキリスト教徒から呼ばれるユリアヌス帝の部分は面白かったが、その他については入れ込んで読むような筆致ではなかった。

ところで、少し前からこんな漫画を読んでいる。
・ヤマザキ マリ 「エルマエ・ロマエ」(ビームコミックス)


これがおかしい。五賢帝時代の浴場設計技師・ルシウスが現代日本の銭湯や温泉宿・プールにタイムスリップして日本人(ルシウスは「平たい顔族」と呼んでいる)の風呂のアイディアや入浴マナーに感心してそれをローマにフィードバックする、という実にくだらないストーリーが毎回毎回展開するのだが、日本人とローマ人の入浴観が近いことを知っている歴史好きなら小躍りしてしまうニッチな作品である。第2巻で哲人皇帝マルクス・アウレリウスとなる少年が登場したところは少し感動的でもあった。どこまでネタが続くのかという興味もあるが、秋葉原駅にでかいポスターが4枚も貼られているのを見ると、多くの人がこの漫画を楽しみにしているようだ。
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8月に読んだ本


・渡辺 京二 著「黒船前夜 ロシア・アイヌ・日本の三国志」(洋泉社)


面白かったので一気に読んでしまった。特に、さまざまな歴史研究を踏まえて、アイヌに対する日本人のオリエンタリズム的でステレオタイプな見方をしていないところが気に入った。もう少し著作を読んでみたくなる。「逝きし世の面影」などはいずれ読もうと思う。

・鎌田 慧 著「沖縄 ウチナー」(七つ森書館)

鳩山政権から菅政権に代わってまだ3ヶ月経っていないというのに、次の首相が取りざたされている。そしてあれだけ騒いだ普天間問題はすっかり下火になってしまった。高校野球で興南高校が優勝して、政治家たちは問題の再燃が少し遠のいたと思っているのではないだろうか。鎌田慧の長い取材録であるこの本は、そんな簡単なことではこの問題が終わらないことを物語っている。しかしちょっと一面的な記述のようにも感じられる。もっと実際は錯綜した複雑な問題なのだろうと思う。


・ドストエフスキー 江川卓訳「罪と罰」(岩波文庫)



先月に呼んだ本のエントリの中で予告した、ご存知「罪と罰」である。恥ずかしながら中学生の時に「罪と罰」のダイジェスト版(中学生が読むに耐えられるもの)を読んでそれで済ませてしまい、きちんとした訳本を完読したことがなかった。ストーリーは単純なので、わかった気になっていたのである。「カラマーゾフの兄弟」は正真正銘2度読んだが、「罪と罰」はこれが初めてといってよい。
なぜ今になってちゃんと読んだかというと、ある少年にこの夏の課題図書として勧めたのだが、勧めた自分がちゃんと読んでないのはまずいと思ったからだ。ということで買い求めた。「カラマーゾフ」に続いて巻末解説の詳しい亀山訳にしようかとも思ったが、大学時代に「謎解き罪と罰」(新潮選書)を読んで感銘を受けた故江川卓(えがわたく である。えがわすぐる ではない。ちなみに後者が野球で活躍する以前から使っていたペンネームである)の岩波文庫版を3冊同時に買った。
いやー、面白い。1週間で読了。ロシア小説特有の、登場人物のさまざまな呼称に惑わされる混乱は必ず起こるが、クリアすればどんどん読める。主人公ラスコーリニコフは中学生の時に読んだのと同じニヒルなイメージであったが、やはりソーニャのイメージ、スヴィドリガイロフのイメージは中学生の時とだいぶ違った。中学生版ではソーニャは娼婦とは書けないからなぁ・・そしてすべての登場人物の饒舌なことといったら!
ドストエフスキーの小説は深遠な哲学も含んでいるけれど、まずは小説なので楽しんで読まないと面白くない。この夏の最大の果実であった。


・臼杵 陽 著「大川周明 イスラームと天皇のはざまで」(青土社)



大川周明の「回教概論」はかつて中公文庫版で読んだ。戦時中の書物であるにも関わらず、古めかしさを全く感じさせない内容であったのに驚いた。イスラーム研究の核となる部分がすでにここに記されていた。
大川周明はイスラーム研究やコーラン翻訳をしていたことよりも、戦前の「右翼」であり皇道派青年将校のブレーンであり、東京裁判で東條英機の頭を叩いた奇人(あるいは本物の精神錯乱者かそれを偽装した?人物)として知られていると思われる。この本はイスラームおよびイスラエル研究の臼杵氏が上記のような大きなギャップを埋めた書物である。内容はなかなか難しく、一読だけで理解できたとはいえない。
イスラーム研究の中で、戦前の大川たちと戦後の研究のつながりを埋める作業が今になって少しずつ進んでいる。

・加藤 聖文 著「『大日本帝国』崩壊 東アジアの1945年」(中公新書)



8月になると必ず先の戦争を振り返る特集があらゆるところで取り上げられる。中公新書でも腰帯をつけて何冊かアジア・太平洋戦争本を売り出しているが、この本も近代史の加藤陽子が推薦する短文が腰帯についていた。ごく最近でたばかりの本なので、買って読んでみた。内容がすばらしい。
1945年の国際状況から説き起こされる。日本が受諾したポツダム宣言が実質トルーマン単独の宣言だったことにまず驚かされる。確かに、ドイツのポツダムで会談をしたのは米英ソの首脳。しかしポツダム宣言は米英中首脳の名前で出されている。ソ連のスターリンは意図的に宣言から排除され、会談に加わっていていない中国の蒋介石が宣言に署名しているのはおかしい。
ポツダム宣言を受け入れるまでの日本国内での苦悩、そして「玉音放送」。8月15日をもって戦争が終了したと日本人は思いこんでいるが、当時の大日本帝国版図の各所を子細に見てみればどうなのか。南洋諸島はすでに米軍に制圧されており戦闘はなく、樺太や千島では本格的戦闘はそれ以後だった(浅田次郎の小説が話題になっているが)。朝鮮半島では?台湾では?満洲では?
というように各章が非常に興味深い。現在の日本人は現在の日本の領土の枠からかつての戦争を考えてしまいがちだが、そうではない視点から見るべきことに気づかされる。

ところで問題の「玉音放送」。ラジオで8月15日正午に発表されたが、昭和天皇の声はレコードへの録音盤だった。これは昔の映画「日本のいちばん長い日」で知っていたが、NHKラジオの出力はいかほどだったのだろうかと思った。それというのも、ほぼ同時刻に現在の日本列島全域はもちろんのこと、植民地である南洋諸島や朝鮮半島・台湾・満州・中国各地で聞けたというのだ。調べてみると、中波放送は10kwから60kwに出力を上げ、短波放送でも放送されたとのことだ。なるほど、短波であれば「外地」であっても受信は可能だと思われるが、短波受信機の所有ということになると、聞けたのは軍関係者だけだろう・・「外地」の一般人はどうやって敗戦を知ったのだろうか?
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7月に読んだ本

前半は仕事で忙しく新書中心だったが、どれも粒ぞろいの良書だった。
後半は仕事山行中の読書なのでコンパクトでボリュームのある「ハングルの誕生」を読み、月末は大著「黒船前夜」(ハードカバー大判の350ページ)にチャレンジ中である。8月は久しぶりに「罪と罰」を読み直そうと思っている。あと図書館から借りた鎌田 慧の「沖縄(ウチナー)」も読まなくては・・

・篠原 初枝 著「国際連盟」(中公新書)


読んでいて、いろいろと知らない国際連盟の内幕を知ることができた。もう忘れかかっているけれど。仕事に活用できそう。

・吉澤 誠一郎 著「清朝と近代世界 19世紀」(岩波新書)


岩波新書から出始めた中国現代史シリーズの1巻目。基本は清朝末期の歴史だが、周辺地域史(モンゴルや朝鮮半島、チベット、ヴェトナムおよび日本)も視野に入れて書かれている。

・野間 秀樹 著「ハングルの誕生」(平凡社新書)


この本は言語学的アプローチが少し高度でやや難しいが、新書というコンパクト奈啓蒙書としては出色の本だと思う。ハングル文字は非常に合理的で優れた文字だといわれているが、漢字文化圏の朝鮮半島で15世紀に生まれたこの文字がなぜ画期的なのか、ということがよくわかるような内容になっていた。

・渡辺 京二 著「黒船前夜 ロシア・アイヌ・日本の三国志」(洋泉社)



ただいま読み始めたばかり。ロシア人のクリル諸島(千島列島)への南下の下りを読んでいる。こういうマージナルな地域の歴史を描ききることは大変勇気のあることだと思う。
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6月に読んだ本

久しぶりの更新。6月はすべて図書館から借りた本。

・笠原清志 著「社会主義と個人 ユーゴとポーランドから」(集英社新書)


社会主義が論じられるとだいたい社会経済システムの話になってしまうのだが、筆者個人の体験を元にした個人的な交流を中心に述べた本であった。特に日本では今でも評価が高いポーランドのワレサ政権が、国内ではさほど評価されていないことが新鮮であった。

・西寺郷太 著「マイケル・ジャクソン」(講談社現代新書)


マイケルジャクソンが亡くなって1年。今でも追悼のテレビ番組や映像、音楽が流れてくる。先日のWOWOWでは、映画”THIS IS IT”をはじめとして丸一日マイケル特集をやっていた。著者はマイケル研究家のミュージシャンとしてよくテレビなどに登場してきた人物である。ジャクソン兄弟の生い立ちから新書の中でコンパクトによくまとめている。ただ、筆者が若いせいか、文章後に付け足されている「(笑)」が時々鼻につく。

・難波匡甫 著「江戸東京を支えた舟運の路 内川廻しの記憶を探る」(法政大学出版局)


「内川廻し」というのは利根川方面から運河を使って江戸に物資を運んだ河川ルートをいう。昔は房総半島を回ってくる海路は危険が大きく、関東各地から河川ルートを使って物資が運ばれてきた。地方からの物資が最後に江戸に向かって運ばれる河川が、わが家のそばを流れる中川であったり小名木川であった。以前ここをカヤックで漕いだことがあるが、現在ではほとんど見向きもされず、水深が浅いので舟もほとんど通らない。わずかに親水性を上げるための土木工事が行われてはいるが、結局ハゼ釣りのポイント以上にはなっていない。
東京やその近郊の水路はもっと見直されるべきだと思う。
この本は筆者がモーターボートで実際に東京から銚子方面まで移動したルポと水運史が重ねて描かれている。それなりに興味を持って読んだが、千葉県の水路は実際に見たり漕いだりしたことがないので実感が湧かない。いつか行ってみようか、と思っている。

・姜尚中・玄武岩 共著「大日本・満州帝国の遺産 興亡の世界史18」(講談社)


満州関係本はどうしても一度は手に取ってしまう癖があるが、この本は岸信介と朴正煕を
軸に描いた本。しかし、どうも満州史専門ではない姜尚中氏が手がけているのが気になる。先行研究は踏まえているが、読んでいくと修辞に拘るところが気になり始め、岸と朴の「評伝」として読んだほうがいいのではないかと思いながら読み切った。
岸は満州国の官僚として国家改造に辣腕をふるい、戦後は戦犯として雌伏しながら戦後政治に深く関与して首相にまで登り詰めた。朴は教員としての職を捨て、満州国で陸軍学校に入学し、戦後は日本協力者としてやはり光が当たらなかったが、60年代から軍事力を存分に行使して大統領に登り詰め、強権政治を行い、最後は暗殺された。二人は満州帝国が生んだ「危殆」であるという。もちろん岸と朴の政治家としての個人的つながりも太い。
この二人の関係を知るだけでも興味深く読めるのだが、私が最も興味を引いたのは、韓国併合後に朝鮮半島から満州に移住を余儀なくされた朝鮮人集団である。もっとこのへんに光を当てる本はないものかと思う。



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5月に読んだ本

今月もメチャクチャな乱読。

・芹沢一也 ほか著「日本思想という病」(光文社 シノドス・リーディングズ)


これは大変面白かった。シノドス・リーディングズはこれで3冊すべて読んだが、いずれもはずれがなかった。中島岳志の講演と、高田理惠子の講演がなかなか良い。

・戸井十月 著「植木等伝 わかっちゃいるけどやめられない」(小学館文庫)

新聞書評につられて購入。クレージーキャッツやその他の和製ジャズバンドの創成期が生き生きと描かれている。

・立石博高・篠原琢編「国民国家と市民 包摂と排除の諸相」(山川出版社)


・マイク・モラスキー著「戦後日本のジャズ文化 映画・文学・アングラ」(青土社)

同じ著者の本を3冊立て続けに読んでみた。新聞書評に「ジャズ文化論」が掲載されていたのが刺激となった。マイク・モラスキーは日本の大学でも教鞭をとる日本文化論の研究者であるが、著作はすべて英語からの翻訳ではなく、日本語で書かれている。沖縄とジャズと映画と文学を縦横無尽にめぐるところが新鮮だった。実は私はジャズ喫茶なるものに入った記憶はないのだが、モラスキー氏がいうジャズ喫茶の位置づけは大変ユニークで面白い。お勧めである。


「その言葉、異議あり! 笑える日米文化批評集」(中公新書ラクレ)


「ジャズ喫茶論 戦後の日本文化を歩く」(筑摩書店)


・堀江則雄 著「ユーラシア胎動 ロシア・中国・中央アジア」(岩波新書)

ユーラシア大陸の大国、ロシアと中国と、そこにに接する中央アジア国家の連携について書かれている。日本はこの方面の外交でもずいぶん立ち後れていることがわかる。

・岡本哲志 著「港町のかたち その形成と変容」(法政大学出版局)

古代から形成されてきた港町について、地図入りで丁寧に説明されている。特に瀬戸内海沿岸の港町が取り上げられており、あまり馴染みがない港町は多い(しかし鞆の浦には行ったことがある)が、特に太古は海面が現在より数メートル上昇しており、いにしえの民が好んで港町にした地形には共通点がある。風が大敵だった港町では、港に前島が付属していることが条件だったのだ。
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4月に読んだ本


・山口 直彦著「アラブ経済史―1810~2009年― (世界歴史叢書)」(明石書店)

19世紀以降のアラブ経済史。特に19世紀の従属化と近年のドバイに代表される躍進については読んだが、あとは斜め読み。

・向 一陽著「ヒマラヤ世界 五千年の文明と壊れゆく自然(中公新書)

ヒマラヤに関する地理・歴史書かと思って借りて読んだが、ほとんどがエッセイであった。あまり残らなかった。

・中村 安希著「インパラの朝 ユーラシア・アフリカ大陸684日(集英社)

2年近くにわたる女性バックパック一人旅のルポ。初め途上国に対する先進国からの人的援助を肯定していた著者が、アジアやアフリカの貧困の中にある種の「幸福」を読み取って次第に慈善・偽善的援助から距離を置いていくところが面白かった。最近の若い女性バックパッカーには、国境を越えるために偽装結婚して国境を越えてから離婚するという手段を選ばない旅をする人がいるとどこかで読んだ気がしたが、この著者も2度結婚と離婚をしている。カバーには著者の写真もあり、なかなかの美人である。下司の勘ぐりだが、紙の上だけの結婚で済んだのだろうか?

・荒 このみ著「マルコムX」(岩波新書)

マルコムXについてちゃんと評伝を読んだのは初めてである。Xが何を意味するのか、またなぜイスラームに傾倒したのかも少しわかったような気がする。

岩波新書編集部編「日本の近現代史をどう見るか」(岩波新書)

シリーズ全巻が発刊され、最近ではまとめ買いができるようになっている近現代史シリーズのまとめである。シリーズの本は確か2冊くらいしか読んでいないが、この本はそれぞれの著者が何を描きたかったのかが語られている。すべて敬体で書かれていて本シリーズの著作より読みやすい。特に加藤陽子の文章に書かれていた、アメリカ中立法や武器貸与法の動きをにらみながら日本が動いていたという内容は注目に値した。

・芹沢 一也ほか「日本を変える『知』(シノドス・リーディング)」(光文社)

以前、シノドス・リーディングの2巻目、「経済成長って何で必要なんだろう」を読んだが、その第1巻目と第3巻目がまだ弊社図書館に入っていなかったので、推薦して入れてもらった。若手研究者の分かりやすい切り口での文章が並んでいる。セミナーでの講演を文章化したものだ。もっと知られていい本だと思う。
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3月に読んだ本

和田春樹著「日露戦争 起源と開戦 上・下」にチャレンジしていたため、冊数は少ない。

・長山靖生著「日本SF精神史」(河出ブックス)



中学生・高校生のころはよくSFを読んでいたが、最近はほとんど読んでいない。著者によればSFにつながる科学(空想)小説は明治期から見られ、その足跡を追ったのがこの本である。どこまでを「SF」というジャンルに入れるかは難しいところだが、明治・大正期にも面白い題材が小説として扱われてきたことがわかる。押川春浪や夢野久作は知っていたり作品を読んだことがあるが、それ以外はほとんど知らない作家や作品ばかりだ。

・香川貴志著「バンクーバーはなぜ世界一住みやすい都市なのか」(ナカニシヤ出版)


以前、自分のブログで「住んでみたい街」というのを書いてみたことがあるが、海外だったら断然バンクーバーである。バンクーバーに行ったのはもう15年くらい前のことで詳しく覚えていないが、高緯度の割に暖かく、都市もコンパクトで非常にいい印象を持った。スキー場も近いし、アイスホッケーチームもあるし、何よりフェザークラフトの生まれた街だ。永住するのは難しくても、最低1年間住んでみたいとは思う。
この本では都市内交通事情や住宅街などの説明もあり、15年前のことをわずかに思い出す手引きにもなったが、まあほとんどのことは初めて知るようなことで、現地に再度行ってみないとわからないことが多かった。ただ、フェザークラフトの「カサラノ(khatsalano)」とは、バンクーバー周辺の先住民の長の名前で、現在でもキツラノビーチという地名で残っているそうだ。もしかしたらカサラノという名前はスクォーミッシュ族では一般的な名前なのかもしれないが、「湖の支配者・貴族」という訳語は当たらないのかもしれない。

・松岡正剛著「連塾 方法日本II 侘び・数寄・余白 アートにひそむ負の想像力 」(春秋社)


松岡正剛が行った連塾の「八荒次第」と称する全8回講演をまとめた本の中巻。「神仏たちの秘密 日本の面影の源流を解く」の続刊である。「神仏たち」は自分で勝って弊社図書館に寄贈したので、今回は図書館に買ってもらい、いの一番に借りた。
この巻も読んでいて面白く、神津島に行っている間に読み通してしまったのだが、何せライブ収録の本なので、ところどころリアリティが伝わらなかったり、わからない部分が残る。話も飛びに飛びまくるので、中心を押さえておかないと面白さだけで読み通してしまう。
ここで紹介されている芸術家たちに関わるものを読みたくなってくる。

・和田春樹著「日露戦争 起源と開戦 上・下」


あまりに大部でまだ下巻の半分くらいまでしか進んでいない。ソ連・朝鮮史を掘り下げてきた和田春樹氏の渾身の論文であろう。日本にはロシア語一次資料、朝鮮語一次資料、日本の軍事資料や政治家の日記などの一次資料があるが、3つの言語を駆使して日露関係の始まりから日露戦争開戦に至る詳細な歴史を書き切れるのは、和田氏をおいて他にない。

専門的な論文ではあるが、一般の読者にも読みやすく、司馬遼太郎の「坂の上の雲」を一読した人ならば上巻の冒頭と日清戦争以後の日露関係を扱った部分については根気よくつきあえば読めるはずだが、詳しすぎて最後まで読めるか自信を失いそうだ。

司馬遼太郎が「坂の上の雲」冒頭で述べたように、日露戦争時の日本は本当に「まことに小さな国」だったのか、そして日露戦争はロシアの南下に対する防衛戦争と捉えていいのか。和田氏は自らは直接語らないが、日・朝・露関係を詳細に見ていくと決してそんなことは言えないことがわかる。日本の軍隊や政治家たちは非常にしたたかに戦争を準備していった。日露戦争までの日本がまともで、以後アジア太平洋戦争までの日本が狂っているなどと単純に二分化して考えられない。
あと1週間で何とか下巻を読み切りたい。
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2月に読んだ本

・堤未果著「ルポ 貧困大国アメリカ2」(岩波新書)


「貧困大国アメリカ1」の方は読んでいないのだが、何となく手に取って借りてきた。読んでみたら衝撃的なアメリカの国内事情が目白押しで、かなりインパクトのある本だった。今月の一押し。
特に冒頭の、州財政の悪化に伴う州立大学の急速な学費値上げと学生のローン地獄に関してはうすら寒いものを感じた。いずれアメリカの後追いで日本の大学もこうなっていくのではないかという悪い予感がする。かつてアメリカの州立大学は学費無料だったのに、この本に書かれている現実は凄まじい。

・野田知祐著「ダムはいらない! 新・日本の川を旅する」(小学館)

久しぶりに野田さんの本を読んだ。河川行政に対する野田さんの舌鋒は相変わらず厳しい。私は川をカヤックで下ることは滅多にしないので詳しいことはわからないが、相当ひどくなっているようだ。購入本だが弊社図書館に寄贈。

・竹沢尚一郎著「社会とは何か システムからプロセスへ」(中公新書)

社会って何でしょうね?この本を読んでも今一つ明快な解答はない。17世紀の社会思想については新たな発見があったが、それ以外は読み込みが不足したのかあまり理解が深まらなかった。これも購入本だが弊社図書館に寄贈。

・島田裕巳著「教養としての日本宗教事件史」(河出ブックス)


著者はかつてオウム真理教関連で擁護論を展開したとしてバッシングを受けた宗教学者。古代からの宗教事件史を扱っていくのだが、特に最澄と空海の関係性についての記述が面白かった。読み進めていくと新宗教に関する記述が増えてくるのだが、著者のフィールドワークはヤマギシズムで、入会までして内部調査を行ったという。学生の時友人にそのシンパがいたけれど、いまのヤマギシズムはどうなっているんだろう?

・高橋敏著「清水次郎長 幕末維新と博徒の世界」(岩波新書)

言わずとしれた清水の大親分、清水次郎長についての歴史研究。通勤電車内で読んでいたのであまりしっかり頭に入らなかった。子分の大政、小政、石松などは知っているが、石松は博徒同士の衝突で落命しているとは知らなかったし、大政には教養があって次郎長の参謀役だったことも知らなかった。維新以後の次郎長の凋落ぶりも読んでいて悲しいが、博徒が畳の上で死んだこと自体も驚きではある。

ということで、2月も支離滅裂な読書であった。

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1月に読んだ本

前のパソコンのHDDに今月読んだ本の表紙画像を入れておいたのだが、クラッシュのおかげでそれらがすべて吹っ飛び、記憶力の弱くなった私の頭には今月読んだ本の記憶すら残っていない。
思い出せるだけ拾い上げてみたが、今月は特別インパクトのある本が少なかったのか、どうしても思い出せないものがある。図書館で借りた本が多く、すでに何度も返しにいっては借りてくることを繰り返したことも理由の一つ。

・大澤真幸・姜尚中(編)「ナショナリズム論・入門」(有斐閣アルマ)


正月に家で読んでいたのだが、多くの人のナショナリズムをめぐる論考集。大澤や姜が編者なのでなかなか読みでがある上に、難解な文章もある。

・前田弘毅 著「多様性と可能性のコーカサス」(北海道大学図書刊行会)


コーカサス地方は少数民族が入り乱れていて、日本との関係も厚くはないので理解が難しい。しかし平易な文体で書かれていて分かりやすい。

・中島岳志 著「中島岳志的アジア対談」(毎日新聞社)


毎日新聞連載中はかかさず読んでいたのだが、一冊の本になったところで読み返してみると記憶から抜け落ちているような部分もあり、新鮮だった。

・落合淳思 著「古代中国の虚像と実像」(講談社現代新書)


中国の古代史は高校の漢文の授業や世界史の授業で逸話のオンパレードとなるものだが、有名な話の多くが「作り話」だという内容の本。冒頭で、この本では中国古代史に対するロマンや期待をことごとく破壊すると宣言しているので、ひじょうに念が入っている。内容は実証的で面白い。

・羽根田治 著「山の遭難」(平凡社新書)


いつのまにか平凡社新書のカバーが赤から青に変わっていた。この本は遭難ライターの羽根田さん自身の体験から始まっていて、さまざまな遭難事例が挙げられている。それにしても最近の遭難や救助要請の事例はひどい。

・椎名誠 著「活字たんけん隊」(岩波新書)


久しぶりに椎名誠の本を読んだ。面白い。だけどこれを読んでここに紹介されている本を読みたいとは思わなかった。

・湯浅誠 著「岩盤を穿つ」(文藝春秋)


「自立生活サポートセンター・もやい」事務局長で「年越し派遣村」村長をやった湯浅氏がいままで書いてきた著作集。
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12月に読んだ本

09年12月31日:記
・芹沢一也、荻上チキ、飯田泰之、岡田靖、赤木智弘、湯浅誠「経済成長って何で必要なんだろう?」(シノドス・リーディングズ 光文社)



著者がやたらに多いが、この6人のうち、メインは経済学者の飯田泰之。彼の対談のゲストが赤木や湯浅で、シノドス・リーディングというシリーズ本(とはいってもこれで2冊目だが)の中心人物が芹沢と荻上である。
最初からなかなか読ませ、非常に面白かった。デフレ基調の経済だが、今こそインフレを起こし年2%の経済成長が出来さえすれば、日本は危機的状況から脱することができるというのが飯田たちの論調である。それはそれで非常に納得するところが多いのだが、どうやって経済成長に向かっていくのか?
エピローグの対談で飯田が、もっと人口の都市集中があった方が税の不公平はなくなる、と述べていたが、私はこれに納得が行かない。所詮都会のエリート校出身者が地方の現状も知らずに述べていることのように思えてならない。

・青砥恭「ドキュメント高校中退 いま、貧困がうまれる場所」(ちくま新書)



高校中退者が貧困層を形成せざるを得ない実情を追跡した本。現場密着のレポートだけに、取り上げられている例が凄まじい。正視できないような事例もある。

・榎本泰子「上海 多国籍都市の百年」(中公新書)



これはなかなか面白い本だ。上海の歴史的定点観測なのだが、「租界」というものの成り立ちを個々まで詳しく述べている本はないのではないか。また、上海に集結したさまざまな民族ごとに章立てがされていて、イギリス人やフランス人、日本人ばかりでなく、白系ロシア人コミュニティーやユダヤ人コミュニティーのことが書かれていて興味深かった。

・中島岳志「インドのことはインド人に聞け!」(講談社)



近くの書店で「上海」「文藝春秋にみる『坂の上の雲』とその時代」とともについ買ってしまった。インドの英字新聞の記事を取り上げてそれに中島が解説をしているという内容だが、インドの現状は日本人のインド像とは違って、かぎりなく先進国が抱える社会問題に近いものがある。周辺地域から隔離された団地、受験競争、自殺・・・ほとんど日本と変わらないことに驚く。
それにしても中島岳志の名前ででる本が多すぎる。新進の学者を使い捨てるようなことにならなければいいが。

・瀬戸口明久「害虫の誕生 虫からみた日本史」(ちくま新書)



弊社図書館から何の気なしに借りたのだが、面白かった。「害虫」という概念は近代以降のもので、ゴキブリなども害虫とは認識されていなかっただけでなく、「コガネムシ~は金持ちだ~のコガネムシとは実はゴキブリのことだという。農業に被害を与える虫を退散させるのに、宗教的儀式(例えば「虫送り」)からどうやって科学的な知識に裏付けられた駆除方法に変化していったのか?ここにはそれが述べられている。

・大豆生田稔「お米と食の近代史」(吉川弘文館)



「害虫の誕生」にあった参考文献リストから興味を持ち弊社図書館から借りた。内容は精密な学術論文に近く、時々意識が飛びそうになる部分もあったが、要点は、日本のコメ自給とは1970年代に達成されたもので、それまでは自給ができていなかったこと、特に明治後期は人口増加率が高く、コメ輸入に躍起になっていたこと、コメの輸入・移入に朝鮮半島や台湾といった植民地が重要な役割を果たしていたこと、であろうか。コメの自給が40年前までできていなかった、ということを今はほとんど意識することがない、ということが発見であった。

・文藝春秋編「文藝春秋にみる『坂の上の雲』とその時代」(文藝春秋)



過去の文藝春秋に掲載された日露戦争に関わる記事の集成。多くは司馬遼太郎「坂の上の雲」で紹介されているものが多いが、改めてさまざまな人の手になる文章を読むと、別の臨場感がある。
さて、今年のドラマ「坂の上の雲」は普段大河ドラマを見ない我が家でも毎回欠かさず見たが、毎回1時間30分と長く堪能できるところはいいが、途中便所にも立てないほどの濃縮版で、休むところがない。豪華キャストにも毎回唸ってしまう(ほんの一瞬しか出なかったが、特に大山巌を演じる米倉
斉加年がいい味を出しており、今後に期待したい)。果して来年はどう描かれるのか。

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11月に読んだ本

09年11月29日:記
・荒山徹「徳川家康 トクチョンカガン 上・下」(実業之日本社)



徳川家康を主人公とし、その名をタイトルとした小説は、山岡荘八「徳川家康」、隆慶一郎「影武者徳川家康」が他にある。残念ながら山岡荘八の長い小説は読んだことがないが、この荒山版徳川家康は隆慶一郎へのオマージュとして作られた第3の家康像といえる。だが、タイトルがすでにネタをバラしてしまっており、今までの荒山の小説が朝鮮の日本に対する「恨」を根幹としていることからすれば、おおかたの想像はついてしまう。本物の徳川家康は関ヶ原で戦死し、影武者としてあてがわれていた朝鮮半島出身の元信(ウォンシン)が家康を騙り、朝鮮からの忍術師を用いながら秀忠及びその補佐役の柳生宗矩と対立していく、というものだ。隆慶一郎の「影武者徳川家康」とは善玉悪玉の設定が逆なだけ。
読んでいて、朝鮮忍者の術があまりに超人的で、その技の種明かしもされない。子供向け特撮番組の類とほとんど同レベルで、そこかしこにそのようなしかけも見受けられる。同世代の作家がこういう時代小説を書いていることを歓迎する人も多いのだろうが、私の趣味ではない。単行本で2巻も買って損した。

・佐藤育子・栗田伸子「通商国家 カルタゴ」(興亡の世界史03 講談社)



フェニキア・カルタゴの通史で大部な1冊の本になるということがすごい。フェニキア人の植民活動と航海技術はもっと注目されるべきだ。この本には、フェニキア人がアフリカを東から南下して喜望峰を回ったと書かれている。1488年にポルトガルのディアスが喜望峰に到達した2000年以上前のことだ。本の後半は、地中海での通商覇権とローマとの対立進行、そしてポエニ戦争が克明に描かれている。ハンニバルはポエニ戦争でローマを苦しめたカルタゴの将軍だが、戦に敗れたあとも東地中海沿岸の都市国家で政治手腕を振るっている。塩野七生の「ローマ人の物語」で少しは知っていたが、あらためて勉強になった。

・岡敬三「港を回れば日本が見える ヨットきらきら丸航海記」(東京新聞出版局)



たまたま弊社図書館の新刊本にあったので読んでみた。なかなか面白くて一気に読んでしまった。筆者はアパレル業界(ヴァンヂャケット)で活躍(ペンションブームや女性旅ブームを巻き起こした人だそうだ)していたが、おそらく一線を退いた後にヨットで各地を回るようになったのだろう。沼津のヨットハーバーから数回に分けて沿岸を旅し、各地の様子を描いている。ヨットだと、カヤックと違って航海は遠距離になる。停泊するのはたいがい漁港で、その際にはどこに係留するのか、難しい場所選びがあるようだ。そして漁港でヨット見るやあからさまに係留してはいけないだの、わざと悪い場所を指定するだの、とにかくよそ者を排除しようとする嫌がらせによく遭うらしい。カヤック旅とはまた違った苦労があるようだ。だが、筆者はそういう意地悪い人をペンで罵倒したりはしない。漁師たちと仲良くなっていろいろな差し入れをもらったり、いい思いもしている。それにしてもヨットの中で自炊しながら航海し続けるのはそれなりに大変そうだ。

・中島岳志「朝日平吾の憂鬱」(筑摩書房 双書zero)



久々に中島岳志の著作を読んだ。相変わらず読ませる。朝日平吾とは、1921年に安田財閥の安田善次郎を大磯の自宅で刺殺し、自らもその直後自決した若きテロリストである。朝日平吾の一次資料は別の人間が持ち去ってしまったにも関わらず、中島は他の資料を用いて朝日の生い立ちから説き起こす。どうも朝日は若い頃から自己中心的で、せっかくついた職も放擲してしまい、どこに行っても嫌われるタイプの青年だったようだ。プライドだけは高いのでまともに就職も出来ず、家族からも厭われる。追いつめられた朝日は自分の夢を実現させるための資金寄付を渋沢栄一を始めとする財界人に迫り、それが撥ね付けられて成金や財閥への恨みをつのらせていったようだ。朝日が安田善次郎を刺殺したのち、世の風潮としては朝日を英雄視する論調が目立った。こういう状況が昭和初期にかけてのテロ事件を次々に生み出す素地となっていった。筆者は秋葉原での無差別殺人にショックを受け、この作品を書いたと述べている。
それにしても他人事ながら、北大の准教授でもある中島岳志は一般向けのこのような本を書いていていいのだろうか?

・三谷博・並木頼寿・月脚達彦「大人のための近現代史 19世紀編」(東京大学出版会)



東大出版会という大学出版局がこういう本を出したことが面白いが、内容はいかにも東大出版会的な硬い内容だ。19世紀編ではアヘン戦争以後の東アジアの各国史を詳細かつ有機的に組み合わせていく。そこには琉球史も台湾史も、ロシア極東史も組み込まれる。特に幕末から明治にかけての日本史の部分で、いままで常識とされてきたこと、高校の教科書には記載されてこなかった新しい視点が描かれており、目を見開かれた感じがした。
但し、その内容は相当東アジア史に精通していないと理解しにくい。「大人のための」と銘打ってはいるが、大人にとってかなり難しい本だ。むしろ大学受験生や歴史学専攻の学生にふさわしいかも知れない。20世紀編が近々刊行されるらしいので、揃ったら個人的にも買っておこうかと思う。

・佐藤優編「現代プレミア ノンフィクションと教養」(講談社)



ムック本ではあるが、これもまた弊社図書館から借りた。著名人が選ぶノンフィクション作品も興味深く読んで見たいと思う本がいくつもあったが、後半にある対談やコラムが面白かった。なぜ新聞は創価学会のことを取り上げて批判しないのか?→新聞の印刷局が正教新聞の印刷を請け負っており、創価学会は新聞社のスポンサーだから。朝日新聞が自衛隊海外派遣について政府の御用新聞と化した背景。中川昭一の死の背景にあるものは?興味は尽きないが、こういうのばかり読んでいると陰謀史観に取り込まれてしまいそうだ。

・佐々木敦「ニッポンの思想」(講談社現代新書)



80年代の「ニューアカ」ブームのころ、ちょうど大学生だった。だが、浅田彰も中沢新一も、併せてここで紹介されている蓮實重彦も柄谷行人もまるで読んでいない。今読もうとも思わない。柄谷の「世界共和国へ」を読み始めて「何言ってんだコイツ」と思い、放り投げた。「ニューアカ」の著名人は文体が難解で何をいっているのかわかりゃしない。ハッキリ言って悪文家たちだと思っている。彼らが紹介するフランス思想も積極的には理解しようとは思わない。この本はそういう食わず嫌いの私を少しはほぐしてくれるかと思いきや、全くそのようなことはなかった。筆者は1964年生まれというが、ご自身は理解できたという「ニューアカ」の思想展開を一般読者レベルまで咀嚼して紹介していないと私には思える。いくら引用しても読者は引用文についていけないのだから。
読んでいるうちにどうでもよくなり、読書放棄。東浩紀の紹介までたどり着けなかった。だが挫折感はない。

・竹内正浩「地図だけが知っている日本100年の変貌」(小学館101新書)



小学館まで新書を出し始めたか!とにかく気楽に電車の中で読めるもの、と思って借りたのだが、案の定気楽にすぐ読めてしまった。地形図の歴史的変遷の中で失われたり新たに現れたものを中心に全国各地の例を挙げている。一つ一つの紹介が短い。地形図も一つのトピックにつき3枚くらい載せてあるのだが、いかんせん新書判なので詳細がわかりにくい。読んでいて一番興味を持ったのは横須賀の海岸地形。これを読んで先日のカヤックの帰りに戦艦三笠の見学に行った。

・野中広務・辛淑玉「差別と日本人」(角川ワンテーマ21)



角川の新書である。野中広務という政治家の出自についてはこの本で初めて知った。現役の議員時代には、小渕首相の密室指名をした「五人組」の一員で、「毒まんじゅう」発言などあまりいいイメージの無かった自民党の重鎮、という印象しかなかったが、この本を読んでたたき上げ政治家のしたたかさと暖かさを感じ、野中広務という人に対する印象がずいぶん変わった。こういうスタンスで汚れ役を常に買って出るのは、2世議員たちにはできない芸当だ。小泉、阿倍、福田、麻生、さらに与党がかわっても鳩山と、およそ庶民感覚とはほど遠い政治家が日本のリーダーとなっている。都知事の石原にしてもそうだ。どうしてこうも人間味も思いやりも欠けた人物が人の上に立つのか。麻生や石原の暴言には怒る前に呆れてしまうのが普通の感覚だ。
もちろん、海千山千のたたき上げ政治家の野中だから、ここで述べていること全てが正しいとは思わないが、少なくとも野中は知らなかったことは知らなかったと述べ、政治家として恥ずかしいとあとがきで述べている。辛淑玉が在日としての怒りや苦しみを率直に述べながら野中と対峙していく中で、野中も胸襟を開いて対話している様子がよくわかる。なかなかいい本であった。

・「怪力 魁皇博之自伝」(ベースボールマガジン社)



特に目新しいことはないけれど、タイトルの通り大関魁皇の「自伝」。インタビューに基づいて書かれたもので本人が書いたものとは思えないが、ゴーストライターの名前はない。九州場所も今日で千秋楽。早々と白鵬の優勝と年間最多勝記録更新が決まり、おそらく今日も朝青龍に勝って全勝優勝となるだろう。今場所幕内通算勝ち星が北の湖を抜いて単独2位となった魁皇が、何度もあった引退の危機を乗り越えて現在に至るまでどのような心境で土俵を務めてきたのか、それがよくわかる。
初場所前半に魁皇は幕内通算勝ち星で現在1位の千代の富士を抜くことだろう。また春場所まで務めれば幕内通算100場所を達成する。だがそういった数字には魁皇はほとんど興味がないらしい。いつまで現役でいられるのか、同じく長く地位を守ってきた千代大海が大関から陥落することが明らかな現在、その去就はますます注目される。

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10月に読んだ本

09年10月31日:記
今月はあまり何冊も読まなかった。しかも読んだのは江戸時代を扱った小説のみ。こういう月があってもまぁいいだろう。

・飯嶋和一 著「雷電本紀」(小学館文庫)



飯嶋和一の小説は初めて読んだ。雷電といえば、過去においても現在においてもほとんど幕内力士を出したことのない「相撲不毛の地」と呼んでもいい信州が生んだ、史上最高・最強の大関(この時代は横綱という地位は確立していない)である。信州出身者として是非読んでおかなければと思って月の上旬に携帯して少しづつ読んでいた。
この小説では浅間山噴火と連動して飢饉に見舞われ、江戸の都市部へなだれ込んできた信州・上州出身のあぶれ者を「シナノモノ」「ジョウシュウモノ」と呼んでいたというが、私はまずこの語感に魅かれた。自分もれっきとした「シナノモノ」である。

読んでいて、場面転換と時間の遡及が多くて戸惑うことが多かった。歴史考証はとてもしっかりしていてリアリズムがあるが、この小説に登場する人物はあまりに善人が多すぎる。善人たちの美談を積み重ねたような内容になっているところも読んでいて少し首をかしげたくなる。だが、それもフィクションだからと割り切れば非常に感動的な小説で、涙も誘う。

この著者の他の作品も読んで見たいとは思うが、同じような善人美談のリフレインだったら飽きそうだ。

・五味康祐 著「柳生武藝帳(上)(下)」(文春文庫)



再読である。面白い剣豪小説は何度読んでも読むに耐える。夏に隆慶一郎の「影武者徳川家康」を再読したが、それ以上に精読することにして月の後半は毎日電車の中で少しづつ読んでいた。

「柳生武藝帳」と呼ばれる3巻の巻物があった(もちろん著者のフィクション)。それぞれの巻物には特別の秘密が書かれているわけではないが、読み解ける人が読むと、そこに皇室と柳生家および幕府の秘匿すべき関係が明らかになるらしい。秘匿すべき事柄とは、紫衣事件を契機に皇子を柳生一党の誰かが殺害し、その下手人が「武藝帳」に書かれた柳生新陰流の免許皆伝者の中にあるらしいのだ。「らしい」と推測が入るのも、「柳生武藝帳」が持つ秘密についてはこの小説の最後まで明らかにされない上、この小説自体が中途半端なところで終わっている未完の小説なのである。

未完の小説ほどはぐらかされるものはないが、この小説は違う。「武藝帳」の秘密をめぐる江戸初期の実在・架空の剣豪・忍者たちが目まぐるしく暗闘を繰り返していく。その対立関係を読者が整理するのも大変だ。主人公格の霞の忍者・双生児の多三郎と千四郎とその主人たる山田浮月斎(疋田陰流)、「武藝帳」の何たるかを知り巻物の流失と秘密の拡散を防ごうとする柳生宗矩と十兵衛・友矩・又十郎父子、宗矩とは距離を置きながらも抜群の剣さばきを見せる柳生兵庫介(新陰流)、兵庫介へのライバル心から「武藝帳」に一時近づく新免(宮本)武蔵(二天一流)、公卿の息子だが朝鮮由来の直刀を取らせたら十兵衛や霞兄弟と比肩しうる剣技を持つ神矢悠之丞、さらに鍋島家や伊達家など有力大名、大久保彦左衛門をはじめとする幕閣たち・・・
男達ばかりではなく、登場する女達も非常に魅力的だ。端役にも魅力的な人物やつい笑ってしまう名前の人物が登場する(吉行淳之介や安岡章太郎そのまんまの浪人が登場)

こうした登場人物の多くが、江戸から京都までの東海道を行きつ戻りつしながら暗闘を繰り返していくのだ。「大菩薩峠」ほどのスケール感はないが、漂泊小説としても魅力がある。

この小説がなかなか厳しいのは、次々に挿話が挟まれ、脱線が非常に多いことだろう。本来はシンプルなストーリーのはずなのだが、挿話を読んでいるうちに本筋を見失いかけることしばしばだ。また、候文が多いのも特に若い人の読破を困難にしている。

再読してみて、初めて読んだ時には気づかなかったストーリーに気づかされることが多かったし、再読だからといって飛ばし読みすることもなく、初回と同じようにワクワクしながら読めた。この小説は私にとって時代小説・剣豪小説の最高峰である。今後も折りに触れて読んでいきたい。

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