6月に読んだ本から

・内澤 旬子 著「飼い喰い」(岩波書店)
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月末に読んだ本からピックアップするのは面倒だし、読んだ本自体を忘れてしまうので、月初めからややインパクトのあった本については書き留めておくことにした。

「世界屠畜紀行」の内澤旬子の最新刊。なんと岩波から出版された。
今度はタイトルのように、著者が千葉東部で借りた一軒家の軒先で子豚から飼育し、つぶして食べるまでが克明に描かれる。
この取材精神は一体どこから湧いてくるのか。以前シェルパ斉藤とトイレなどの取材を行い、脇役のイメージがあったのだが、もう完全にシェルパ斉藤を超えてしまった。しかも、著者は乳癌と闘いながらこのバイタリティーを振り絞っている。感服つかまつった。
しかし、内容的には「世界屠畜紀行」を超えるところまで入っていない感じがする。
同じく内澤が過去に書いたものとして、先日これも読んだ(というかイラスト集なので眺めた (講談社文庫)。最近書店で平積みになっている、「おじさん図鑑」(なかむら るみ著 小学館)とあわせて読むが吉。
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・坂野 潤治 著「日本近代史」(ちくま新書)
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学生時代に彼の授業を受けたことがある。その縁もあって購入。
新書としては圧倒的な厚さ。しかも専門分野を越えて幕末から太平洋戦争直前までを書ききっている。非常に論理的で、根拠なく世間に流布している過去の政治家たちへの評価を論理的に覆している。特に原敬に対する評価は新鮮だった。
日本史のことをかなり知っていないと読めないと思われる。あやふやな知識しかない私が電車の中で睡魔と戦いながら読んでいると、活字を追っているだけになり、頻繁に登場する史料の内容を吟味しないままに読む進めるので、かなりの部分は読解できていない。
もう一度じっくり読まないとダメだろう。

・渡辺 一史 著「北の無人駅から」(北海道新聞社)
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800ページ近くもある分厚い本だが、面白くて一気に読み終えてしまった。著者は北海道在住のルポライター。北海道に多く存在する無人駅がもつ背景をかなり深くまで抉っている。「無人駅探訪」の類いの表層的な本ではない。日本社会の裏側まで描き出した渾身の作である。
冒頭の室蘭本線・小幌駅は列車で通過したことや、すぐ山側の高速道路を走ったことがあるが、こんなトンネルの間にあっていまは誰も乗降りしない駅が存在するとは思っても見なかった。しかし、過去の小幌駅には奥深いエピソードがあった。著者は自分の足で無人駅を探訪するところから、周辺住民(これを探すのが一苦労である)を取材対象として肉薄していく。何年もかけて、閉鎖的な村落社会に食い込んでいく粘り強さに脱帽する。
その他、釧網本線・茅沼駅の章では釧路湿原と自然環境問題が、札沼線・新十津川駅では北海道の稲作が、釧網本線・北浜駅では流氷観光と「カニ族」が、留萠本線・増毛駅ではニシン漁と映画ロケが、石北本線・奥白滝信号場では過疎と平成の大合併が論じられている。各章の末尾に本文での用語説明や補足が4段組で述べられており、これも圧巻であるが、いかんせん字が小さ過ぎて暗い電車の中で活字を追うのは辛い。