メイストームと乗鞍岳

連休中はものすごい風が吹いた。これでは山での遭難も多発する。
少雪だったスキーシーズンを3年ぶりの乗鞍岳で〆ることにして、登山者・スキーヤーが比較的少ない5日、6日に決行することにした。今回は単独ではなくて吐月工房氏が相方である。13年春に乗鞍に行ったときも吐月工房氏が相方だった。乗鞍ではもう何度も位ヶ原山荘でご厄介になっているが、つねに相方は吐月工房氏で、最も信頼が置けるパートナーである。

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今シーズンは2人ともあまりスキー登山ができていないこともあって、まったりのんびりを主眼として5日の最終便バスで位ヶ原山荘へ上がり、夕方少しだけ遊んでメインの行動は6日とした。これが正解だった。絶妙のタイミングでスキーを楽しみ、その直後に雨となった。

私は5日8時30分に出発、中央道の上り線渋滞を横目に順調に11時に塩尻北インターを降り、我がソウルフードを食べて乗鞍高原に向かった。松本平は晴れて暑いくらいだが、ひどい南風で畑の土ぼこりで舞い上がり空気が茶色い。しかも北アルプスの上には厚い雲がかかっている。

13時少し前に待ち合わせ場所の三本滝駐車場で吐月工房氏と落ち合うが、標高約1800mの三本滝駐車場はさすがに寒い。風の強さに不安を感じながら、ゆっくり仕度してバスを待った。バス最終便に乗る人はこの天候と連休最終日という条件では少ない。他の乗客は30分程度位ヶ原山荘まわりを散策して再び下る観光客(外国人も若干名)だった。

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5日夕方、人気のなくなった山荘前(風が冷たい!)

位ヶ原山荘に余計な荷物を置かせてもらい、シールなどだけを持って小一時間遊びに出かけてみる。2350mの標高がある位ヶ原山荘から見える範囲にはさすがに雪があり、乗鞍岳の斜面には例年と同じくらい雪が付いているようにも見える。富士見沢と鶴ヶ沢の間のゆるい尾根上を登ってみたが、下部は例年になく薮が出ているように見えるし、何しろ雪が硬くパックされている。標高2530mくらいまで登ってハイクアップを終了とした。シールを剥がして滑降に移っても、雪の状態が悪くてまともなターンもさせてもらえない。革靴の吐月工房氏はハンディがある分、私よりも苦労していた。

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硬い斜面を登る

山荘まで降りて、雲がなくなった稜線を恨めしげに眺めるしかなかった。

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左から主峰剣ケ峰・蚕玉岳・朝日岳
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夕暮れの富士見岳

山荘の宿泊客はほとんどアイゼン装着の登山目的の方々だ。特に興味を引いたのが若い女性と初老(実は私らと同じくらいかな)の男性の2人。若い女性があまりにも山小屋に似つかわしくなく、天然な感じがあふれ返っている。少し会話したら、山に登ること自体がこれで2度目、春の乗鞍岳しか登ったことがないそうで、昨年の写真を嬉しそうに見せてくれたが、山荘の談話室にあったマンガの「岳」を今回初めて読んでハマってしまったらしい。通常は「岳」の映画を観て、次ぎにマンガを読んで、同性のお友達と都会の近くの低山をファッションにこだわって歩くのが山ガールだと思うのだが、すべてが逆から始まっているのが不思議だ。

標高2350mの贅沢な夕食を頂き、夜空の星を寒風吹きすさぶ中で一瞬だけ見た。

翌朝は冷え込む予報、しかも天候は晴れから雨へと転じていく。早く出たいところではあるが、アイスバーンを登る道具は確信犯的に持ってきていないし、朝食も一番遅くに頼んでおいた。しかしやることもなくなるので8時前には登行開始。予報に反して朝の気温は高めだったので、歩いているうちに雪が緩んでくれればラッキーだ。

屋根板を登り、位ヶ原から除雪前の県道沿いのトイレまで歩いていたら、摩利支天直下の急斜面をトラバースしていた二人組の後ろの人が30mくらい滑落するのを見てしまった。「とまれとまれ!」と叫びながら祈っているうちに大怪我なく止まったが、精神的にダメージが大きいようで横ばいでないとトラバースができなくなっているのを見た。ケガがなくて幸いだったが、パートナーがすぐに助けに行かないのも見てしまったので、何だか後味の悪いものを見てしまった。何であんな急斜面を歩くのだろう。スキーヤーたちが辿ってくるコースであれば絶対に滑落なんて起こらないはずなのに。

ちなみに、前夜少し話をした女性もあとで聞いたらもっと滑落したらしい。幸いケガなく、パートナーもすぐに助けに行き、本人もいっそ下まで滑り降りようとしてわざと滑り降りたところもあるらしいのだが、下に岩などがある危険な場所でなくてよかったと思う。それにしても天真爛漫なこの女性、恐るべし。

登山者はめいめい硬い雪面を歩いているようだが、我々軟弱臆病スキーヤーの限界は標高2800mあたりだった。もう肩の小屋より上は硬くて、テレマークスキーで滑っても面白くない。朝日岳と蚕玉岳の間の沢の中間点手前でシールを外し、沢に滑り込む。最初はクラストで慎重に、少し高度を下げたら快適な雪の状態に変わったので、ここからは天国に転じた。気持ちよくターンを描いてトイレ上を横切り、道路沿いに尾根を巻いて通称「すべり台」を登る。さすがにこっちはスキーヤー天国で、10名ほどがシール登行している。県境の稜線2790mまで登って、大休止の後すべり台を途中まで滑降、2650mほどで左手の道路と合流して、富士見沢へと滑り込む。2550mまで滑り降りた。

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まだ槍・穂高が見えるが雲の色が・・
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「すべり台」を登るスキーヤー
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富士見岳から剣が峰方面。かなり空模様が怪しくなってきた

最後は道路最高地点を目指してシール登行し、鶴ヶ沢を滑る。11時45分に2700mの県境道路最高地点にたどり着いたら、だいぶ黒っぽい雲が西から迫ってきた。鶴ヶ沢をほとんどノンストップで滑り降りて、林間を辿って位ヶ原山荘上の県道に降り立つ。これで今シーズンは終了。もう悔いはない。

山荘でコーヒーを頂き、13時30分のバスで下山する頃には、雨が本降りとなっていた。あらためて絶妙のタイミングで無事下山できたことを噛みしめた。

今シーズンのスキーは残念ながら少雪に泣かされた。せっかく買った会津高原高畑スキー場の9,800円シーズン券だが、スキー場全面オープンが1月中旬にずれ込み、やっとこさ元を取ったような回数しか行かれず、ゲレンデパウダーも1回のみ。2月上旬はインフルエンザでダウンし、病み上がりで参加した高谷池ヒュッテ泊のツアーは季節外れの雨で大谷ヒュッテに変更、横滑り大特訓ツアーとなった。3月は消えゆく雪に焦ってステップソールでの歩きに切り替えたが、これはもう少し探求したいところだ。4月の単独燧ヶ岳も雪が少なかった。まあそれでもこの乗鞍岳で全て取り戻してお釣りが来た。乗鞍大雪渓のウェブでは、我々が下山した翌日も荒天が続いたとレポートされている。

「安全第一」「命あっての物種」。細々と、でもケガなく長く続けて行きたいものである。
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今回のトラック。内側のループが5日、外側が6日。