北ア・雨から退避(1日目)

久しぶりに北アルプスに踏み込むことにした。前回北アルプスに来たのは何年前だろう?おそらく、仕事山行で折立〜新穂高温泉を歩いて以来、9年ぶりということになろうか。

1日目  
2日目  3日目

以前のエントリでも書いたが、今年は悔いなく山を歩きたいと思い、飯豊と裏銀座+笠ヶ岳を歩こうと半分冗談めかして述べた。飯豊はウィッシュリストのNo.1だったので最もいい時期に歩いたが、それから3週間近く経って裏銀座にも行きたくなった。激込みになる「山の日」から始まる旧盆を避けて、20日過ぎの天候を睨んでいたが、台風が過ぎた25・26日あたりが良さそうだと思った。

計画は山中3泊。立派な山小屋が点在する北アルプスだから、テントは持たず軽い荷物で長距離歩くことにした。1日目は信濃大町からタクシーで高瀬ダムに入り、ブナ立尾根を登って烏帽子小屋か、時間に余裕があれば野口五郎小屋まで。2日目は烏帽子からなら三俣山荘、野口五郎からなら双六小屋、3日目は笠ヶ岳山荘、という計画にした。

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裏銀座地図(その1

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裏銀座地図(その2

ザックはいつものバルトロ75ではなく、スキーザックのターギー45。マット・シュラフを持たなくてもいいし、食料も行動食だけでいい。ずいぶん軽くなった。ただし、稜線歩きで水がふんだんに使えないはずなので、合計3リットルは担いでいく。最近、ファーストエイド用具を充実させて持っていくようにしているが、今回は飯豊に持っていったセットに加えて、以前使っていたショートストックを持っていくことにした。最近は歩きにストックを使わなくなっている私だが、イザというとき(ケガのとき)の添え木代わりとして使うつもりで持参した。幸いなことにずっとターギー45の中に収まっていてくれた。

さて、現実は表題通り、なんとなく予報より早く雨が降り出す予感がして、弓折分岐から笠ヶ岳への道と下山に使う予定だった笠新道は断念することにした。これが吉と出た。

8月24日 曇り後晴れ
前日夜に松川村の道の駅で車中泊し、早起きして信濃大町駅前のタクシー会社に着き、そこで車を預かってもらった。事前に交渉していたのだが、タクシーを使えば預かり料金は発生しない。素晴らしいサービスだ。当日朝の相乗り客はなく、私一人で高瀬ダムまで利用したのでタクシー代は8,200円。飯豊に比べれば多少安いもんだし、七倉でタクシーを乗り換えなくても済む。七倉では登山届を出さなくてはならないが、これも自宅で書いて持参したので無駄な時間を使わず、6時30分に高瀬ダムから歩き始めることができた。トンネルを潜り、不動沢にかかるつり橋を渡り、濁沢の幕営地を通過して6時55分にブナ立尾根に取りつく。「北アルプス三大急登の1つ」などと言われるが、さほどでもない、というコメントをウェブ上でよく見る。確かに大汗はかくがサクサク登れてしまう。登りながら理由を考えたが、それは登山道の整備が行き届いているから急登に感じない、ということだと思う。飯豊のワイルドな登山路を歩いた後でブナ立尾根を歩いた身としては強く感じる。急登なのに急登に感じさせない登山道の整備をされている方々に頭が下がるのである。

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高瀬ダムから
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不動沢のつり橋
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いよいよブナ立尾根へ

烏帽子小屋まで要所要所でカウントダウンの番号が置かれていて、頻繁に携帯で通過時間のメモを取っていったが、2箇所で5分程度の休憩を取りつつ烏帽子小屋に着いたのが10時30分。ダムからちょうど4時間、登山口からは3時間30分ほどで登ってしまった。しかも気圧が変動していて実際の標高よりも高度計の数字がだいぶ低く表示されたので、小屋の屋根が見えたときは拍子抜けだった。ブナ立尾根の途中で先行していた七倉山荘前泊組の方々をかなり抜いてしまった。休憩時にそのうちの数名の方と言葉を交わした。そのうち一人が女性単独のUさん、もう一人が若い男性で幕営山行のSさんだった。彼らとは縦走路で前後して歩き、楽しい会話を交わしながら途中で別れた。

烏帽子小屋にはちょっと早く着きすぎた。前日に予約を入れてあったし、この日の午後の天気予報は良くなかったので、野口五郎小屋まで進むことは心理的にはばかられ、宿泊受付をする前に烏帽子岳を往復することにした。最初はガスっていて何も見えなかったが、烏帽子岳の特徴的な岩峰を登って頂上に着き、ひとり大岩の上でマッタリしていたら視界が開けてきた。そこへ後続のUさんやSさんがやってきた。Uさんは岩登りが苦手らしいが、最終目的地は槍ヶ岳だという。槍の穂先に登る不安を隠さないところが率直でかわいらしい(年上らしいけど)。Sさんはいつもニコニコしている好青年で、私が座っていた大岩の上でかなり長い時間のんびりしていたようだ。

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烏帽子頂上の岩峰(標柱はあるが岩峰の上はちょっと厳しい)
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ニセ烏帽子から振り返る

小屋に戻りながら全貌をあらわした烏帽子の岩峰を撮影して、小屋に戻ったのが12時30分。小屋の中や外でのんびり午後を過ごした。天気は予報に反してむしろ良くなっていく。赤牛岳や薬師岳まで見通すことができるまでになった。烏帽子小屋の周りは花崗岩の砂が敷き詰められているが、毎日掃き清められて枯山水のような地面になっているし、小屋の前に花が咲いていてとても清潔感がある。古くて素朴な造りだが、とことん近代化された小屋とはまた違った趣でいい山小屋だと思った。キャンプサイトも奥行きがあってとてもいい感じだ。この日の夜は宿泊人員に余裕があってありがたかった。耳に入ってくる情報によると、宿泊客の中の多くの方が翌日の宿泊を水晶小屋にしているらしい。しかし16時を回ってツアー10余名が入ってきて、かれらも翌日は水晶小屋泊りだということを聞き及び、動揺が走る。私は水晶小屋に泊まるつもりはないので関係はないのだが、あらかじめ予約を入れていたUさんたちは気が気ではない様子。頑張って三俣山荘まで行った方がいいですよと言ったら、Uさんは弁当をもらって朝食前に小屋を出るという。小さな水晶小屋に団体ツアーが宿泊するとなると、個人で予約を入れている人にも影響が及ぶ。泣きを見るのは団体でなく個人だというのが、不条理である。

一方で、とても個性的なルート選択をされている方も見受けた。北アルプスで最もシブい七倉・船窪・不動・南沢を歩いてこられた方もいた。北アルプスって、ルートが豊富だから自分なりの一筆書きができるのが魅力なんだなと思う。他の山域だと縦走路は自ずと定まってしまうが、北アルプスなら温泉をつなぐ縦走だとか、工夫を凝らしたループ状のルートを考えれば、車で登山口に乗りつけてデポしておいても十分楽しめる。

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小屋の前の花畑
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薬師岳方面に若干雲が残る